トリケラトプス(4) 前脚はどう付いていたか
- 2014/11/03
- 13:02
トリケラトプスは非常に有名な恐竜ですが、驚いた事に完全に揃った化石はいまだ発見されていません。そんな理由もあって、前脚がどの様に関節しているか、長い間議論されてきました。
トリケラトプスを記載したO.C.マーシュ博士は哺乳類の様にまっすぐに前脚を立てて復元を行ないましたが、1905年にはチャールズ・H・ギルモア博士により腕を左右に広げた這歩きに復元されました。1930年代にはイェール大学ピーボディ博物館の角竜の専門家リチャード・スワン・ラル博士も前脚を大きく左右に張り出した復元をしており、現在でもこの様に組み立てられたトリケラトプスの骨格を見かける事があります。1970年代に入り、「恐竜ルネサンス」が巻き起こると、恐竜は温血動物であるという主張のもとに、マーシュ博士の前脚を哺乳類の様にまっすぐ立てた復元が主流となってきました。
この様に大きく異なる復元がなされるのは、恐竜の関節部分に軟骨が分厚く付着しているものの化石としては残らない為、どの様に関節したのか正確にわからないという理由によるそうです。
それぞれの主張にはもちろん根拠があります。直立型に復元する研究者は、足跡の幅が狭く、ほぼ肩の下に来る事を根拠としています。一方、這歩き型に復元する研究者は、直立に組むと前腕部が不自然な形で関節する為、脱臼してしまう事から、腕を張り出していたと考えます。
この論争に光を投げかけたのが【レイモンド】と名付けられた標本です。東京上野の国立科学博物館に常設展示されている世界一保存状態の良いトリケラトプスの化石です。この化石では前脚が関節した状態で発見されています。

レイモンド。科博で見る事ができます。
このトリケラトプスを研究し新説を発表したのが、当時東大大学院生だった藤原慎一さんです。この研究では、トリケラトプスの手の構造が一般的な哺乳類や爬虫類とは異なり(哺乳類では中指に最も力が加わる構造をしている。馬の蹄は中指のもので、他の指は皆退化してなくなっている)、人差し指が最も体重を支える指となっている事がわかりました。つまりトリケラトプスの体の支え方は、哺乳類や爬虫類と異なり、トリケラトプス独自のものであった事が判明したのです。そうして新たに提唱された前脚の付き方は、直立型でも這歩き型でもありませんでした。二の腕の骨(上腕骨)は体に対して平行に付いているものの、まっすぐ下向きに付いているのではなく、やや後方に斜めに付いていました。また、手のひらは前方を向いておらず、親指が前を向き、人差し指、中指が外を向くように接地していました。薬指と小指は地面に付かず、体重を支える上では役に立たなかった様です。人間が【小さく前ならえ】をしている時の格好とほぼ同じ体勢です。この様にやや外に向かって開いた手のひらは、足跡の化石と良く合致すると言います。

前脚が【小さく前ならえ】の状態として描いた想像図。親指が前方を向き、人差し指、中指は外を向く。
この復元が最終的な回答であるとは言い切れませんが、今現在提唱されている仮説の中では最も信頼性の高いものである事は確かです。最近では海外のイラストレーターもこの仮説に従って角竜の前脚を復元している様です。
参考文献:恐竜学最前線6 学研、「恐竜博2011」図録
トリケラトプスを記載したO.C.マーシュ博士は哺乳類の様にまっすぐに前脚を立てて復元を行ないましたが、1905年にはチャールズ・H・ギルモア博士により腕を左右に広げた這歩きに復元されました。1930年代にはイェール大学ピーボディ博物館の角竜の専門家リチャード・スワン・ラル博士も前脚を大きく左右に張り出した復元をしており、現在でもこの様に組み立てられたトリケラトプスの骨格を見かける事があります。1970年代に入り、「恐竜ルネサンス」が巻き起こると、恐竜は温血動物であるという主張のもとに、マーシュ博士の前脚を哺乳類の様にまっすぐ立てた復元が主流となってきました。
この様に大きく異なる復元がなされるのは、恐竜の関節部分に軟骨が分厚く付着しているものの化石としては残らない為、どの様に関節したのか正確にわからないという理由によるそうです。
それぞれの主張にはもちろん根拠があります。直立型に復元する研究者は、足跡の幅が狭く、ほぼ肩の下に来る事を根拠としています。一方、這歩き型に復元する研究者は、直立に組むと前腕部が不自然な形で関節する為、脱臼してしまう事から、腕を張り出していたと考えます。
この論争に光を投げかけたのが【レイモンド】と名付けられた標本です。東京上野の国立科学博物館に常設展示されている世界一保存状態の良いトリケラトプスの化石です。この化石では前脚が関節した状態で発見されています。

レイモンド。科博で見る事ができます。
このトリケラトプスを研究し新説を発表したのが、当時東大大学院生だった藤原慎一さんです。この研究では、トリケラトプスの手の構造が一般的な哺乳類や爬虫類とは異なり(哺乳類では中指に最も力が加わる構造をしている。馬の蹄は中指のもので、他の指は皆退化してなくなっている)、人差し指が最も体重を支える指となっている事がわかりました。つまりトリケラトプスの体の支え方は、哺乳類や爬虫類と異なり、トリケラトプス独自のものであった事が判明したのです。そうして新たに提唱された前脚の付き方は、直立型でも這歩き型でもありませんでした。二の腕の骨(上腕骨)は体に対して平行に付いているものの、まっすぐ下向きに付いているのではなく、やや後方に斜めに付いていました。また、手のひらは前方を向いておらず、親指が前を向き、人差し指、中指が外を向くように接地していました。薬指と小指は地面に付かず、体重を支える上では役に立たなかった様です。人間が【小さく前ならえ】をしている時の格好とほぼ同じ体勢です。この様にやや外に向かって開いた手のひらは、足跡の化石と良く合致すると言います。

前脚が【小さく前ならえ】の状態として描いた想像図。親指が前方を向き、人差し指、中指は外を向く。
この復元が最終的な回答であるとは言い切れませんが、今現在提唱されている仮説の中では最も信頼性の高いものである事は確かです。最近では海外のイラストレーターもこの仮説に従って角竜の前脚を復元している様です。
参考文献:恐竜学最前線6 学研、「恐竜博2011」図録
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