幻獣の名を冠する恐竜シリーズ18 マイアサウラ(1)
- 2015/10/25
- 23:01

マイアサウラの全身の想像図。良く出回っている復元骨格だと鼻先が潰れて扁平に見えますが、実際はブラキロフォサウルスの様に膨らんでいた様なので、それを念頭に描いたものです。
マイアサウラ・ピーブレソルム(Maiasaura peeblesorum)は1978年にアメリカのモンタナ州ティトン郡にあるショートーという町の近くで発見されたサウロロフス亜科の鳥脚類です。発見されたのはカンパン期に堆積したツーメディシン累層という事で、およそ8000万年前に生息していました。1979年にジャック・ホーナー博士、ロバート・マケラ博士により、マイアサウラ(=優しい母親トカゲ)と名付けられました。種小名は発見地の所有者(?)のピーブルス家に献名されたものの様です。
マイアサウラの特徴としては、目の上に低い骨質のコブがある事、後脚の爪の付け根に細長い突起がある事、鼻の孔のサイズが小さく位置が前方にあると言います。他のサウロロフス亜科の恐竜では、鼻の孔が非常に大きく鼻面の大部分を占めるがマイアサウラでは口先の方に開いていてサイズも小さく原始的なのだそうです。
系統的にはブラキロフォサウルス(Brachylophosaurus canadensis)に最も近縁で、アクリスタヴス(Acristavus gagslarsoni)及びブラキロフォサウルスと共にブラキロフォサウルス族を形成します。サウロロフス亜科の中では原始的な種類の様です。

マイアサウラの全身骨格。2011年に群馬県の神流町恐竜センターで開催された恐竜展にて。
分かりにくいですが、後ろにエドモントサウルスの頭骨があります。比較すると鼻の孔が小さいのが分かります。
1978年、最初に発見されたのは巣と15頭の生後間もない子供の化石で、子供たちはいずれも体長1m程であったそうです。同年には更に巣が発見され、ここから見つかった子供たちは体長50cmでした。卵の殻の化石も残っており、それらを丹念に繋ぎあわせたところ、体長50cmの子供が中にピッタリ収まるサイズである事がわかりました。これらの化石が発見された場所は、今日では「エッグ・マウンテン」と呼ばれています。大人の化石は1970年、1982年にエッグ・マウンテンからそう遠くない場所から集団で発見されています。この事から、マイアサウラには群居性の性質があった事が推測されています。
50cmの子供が孵化直後という事になると、先に見つかった体長1mの子供たちは孵化直後ではない事になります。ホーナー博士らは子供の足の骨を調べました。その結果、先端部の発育が不完全で、まだ長距離を歩いたり走ったりはできないと思われました。巣の中には踏み砕かれた卵の殻が残っており、これも子供たちが巣から離れなかった証拠と考えられました。また、その様に巣から離れられない状態にも関わらず、歯が擦り減っていました。
ここから推測されるのは、親が巣まで食べ物を持ってきて子供たちの世話をしていた、という事です。ただし、親は最大9mにもなったので、抱卵はせず、植物の腐食する際の熱で卵を温めたと推測されます。

マイアサウラの赤ちゃんの骨格。福井県立恐竜博物館にて。
頭が丸っこく、可愛らしいですね。頭が丸くて目が大きく、鼻が小さいっていうのは全ての動物が本能的に可愛いと感じてしまうんだそうです。漫画の様なデフォルメされたイラストの美少女って、その特徴に合致してますね、そういえば。
この様に子育てをしていたと思われる発見は、それまで卵を産みっぱにしていたと考えられていた恐竜観を根底から覆すものでした。この為、ギリシャ神話に登場する女神で他者の子供でも憐れんで育てた逸話があるマイアに因んで命名された様です。また、通常は男性形でサウスルとされるところを、女性形でサウラとしました。今日では”マイア”も”サウラ”も良く使われる様になってきましたね。
※”マイア”の方は最古の胎盤を持つと思われる哺乳類エオマイアや卵を守っていたオヴィラプトル類ネメグトマイアなど、”サウラ”の方はレアエリナサウラやガスパリニサウラなどの女性に献名された場合に良く見られます。
更に調査を進めて行くと、多数発見された巣が皆同一の地層面にあった事が分かってきました。それはつまり、エッグ・マウンテンには何百という巣が作られていたという事です。巣と巣の距離は大よそ7m位離れていましたが、これは大人の平均的な体長と一致すると言います。ここから考えられる事は、マイアサウラが今日の一部の鳥類に見られる様に集団営巣をしていたという事です。一般的に鳥類が集団営巣する場合、巣と巣の間隔は親鳥の体長または翼長に見合ったものになると言いますので、マイアサウラの生態が鳥類に似ている可能性が示唆されました。巣と巣の間から赤ちゃんの化石が出てきた例もあるそうで、これは死亡した赤ちゃんを巣の外に放り出している為ではないかと言います。この様な行動は現生の鳥類でも見られるそうです。
子供は体長が1.25m位になると後脚がしっかりしてきて巣から離れられる様になった様です。先に述べた通り、マイアサウラの大人は幾つかのボーンベッドで発見されています。そこには巣離れ可能なサイズの個体から7mの大人が含まれており、それらもやはり同一の地層であったそうです。ホーナー博士は、「マイアサウラは子供が1.25m程度に成長すると群れで営巣地から離れて行く」と考えました。それはつまり、マイアサウラは「集団」で「営巣地」と「どこか別の場所」を「季節的」に「移動している」という事になります。折しも恐竜が餌を求めて渡りを行っていたのではないかという仮説が出ていた時期でしたので、マイアサウラの発見は恐竜の渡りを強力に補佐する証拠でもありました。更に、営巣地と大人の集団が化石化している状況から、ホーナー博士はこれらのマイアサウラは火山の噴火により一斉に死亡したものと推測しています。
もちろん、マイアサウラの子育てに対する懐疑的な見方も存在しています。巣の中からシデムシの化石が発見されている事がその1つと言います。シデムシは漢字で「死出虫」と書き、その名の通り動物の死骸を食べる虫です。この昆虫の化石が巣から出てきたという事は、子供たちは既に死亡していたという事で、親が保護していたのか疑問がある、という事です。
他には、歯が擦り減っている事への反論があります。現生種のワニでは卵の中にいる赤ちゃんが歯ぎしりをするそうで、孵化する前から歯が擦り減っている例があるそうです。
もう1つ、巣に卵の殻が残っている事が挙げられます。鳥類の場合、ヒナが怪我をしないよう、孵化したら直ぐに殻を巣の外へ捨ててしまうのだそうです。これらを総合して沢山の巣が一斉に死滅した状態が化石として発見されただけであり、子育てはしていなかったという見方もあるという事ですね。
2015年にマイアサウラの生態について考察した論文がホーリー・ウッドワード博士らによって出されたそうです。それによると、大小50体分の大腿骨からマイアサウラの成長率や死亡した年齢、性成熟などを調査したということですが、0~1歳までの死亡率は90%にも上ると言います。もちろん、子供が全滅してしまった巣は放棄されるでしょうから、そこからシデムシの化石が出てきても何ら不思議はないですね。
恐竜がどこまで子供の面倒を見たのか、化石からは状況証拠しか出てきませんので、永遠に判明しないのかもしれませんが、今後の研究でより面白い真実が明らかになるのを楽しみに待ちたいものです。

お母さんと赤ちゃんの図。やはり、マイアサウラはかいがいしく子供の世話をしてあげた"優しいお母さん"であって欲しいです。
参考文献: 「ニュートン別冊 恐竜年代記」教育社、「ティラノサウルスは女王に率いられていた」金子隆一とグループ「ジュラシック」 ポケットブック社、「イラストで見る最新恐竜ハンドブック」ヤン・ソバック、フィリップ・カリー著 ユニバース出版社、「恐竜博2011」図録、Wikipedia「マイアサウラ」、「Maiasaura」
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