幻獣の名を冠する古生物シリーズ2 マチカネワニ(1)
- 2015/12/28
- 21:02
年内最後の更新になるかも。
マチカネワニとは和名で、学名はトヨタマヒメイア・マチカネンシス( Toyotamaphimeia machikanensis )と言います。Wikipedia等に詳しく書いてあるので、ここで私がグダグダと書き連ねるのもなんですが、ザッと概要を書いてみたいと思います。

マチカネワニの想像図。口先が細く魚がメインディッシュに見えますが、
哺乳類も襲っていた可能性が指摘されています。
マチカネワニの化石MOUF00001は1964年に大阪府豊中市の待兼山丘陵で発見されました。ここは大阪大学のキャンパス内で、理学部の新校舎の建設現場で見つかったそうです。
直ぐに大阪大学や京都大学から多数のメンバーがあつまり、計4回の発掘が実施され、尾の大部分は欠けているものの、ほぼ全身の骨格が揃ったそうです。頭骨は105cmあり、発掘当時は全長8mと推定されましたが、後に7m弱と下方修正されています。推定体重は1.3tと言いますので、現生のワニと比較すると、かなり大きなワニですね。
発見された地層は大阪層群上部の茨木累層で、更新世の頃の地層だそうです。大よそ38~42万年前位の地層という事ですが、55万年前くらいであるという意見もあるとか。植物化石の分析から当時の気候は寒冷期から温暖期に移行する時期であり、現代とさほどに変わらなかった事が判明しています。マチカネワニは現代では珍しい温帯性のワニであったと考えられています。

マチカネワニの復元骨格。「メガ恐竜展2015」にて。
他にも大阪市立自然史博物館や豊橋市自然史博物館、飯田美術博物館など
複数の施設で見る事ができます。
本種は発見当初は頭骨の特徴が現生種のマレーガビアル(学名はTomistoma schlegelii。クロコダイル科、ガビアルモドキともいう。 )と良く似ていたので、1965年に京都大学の亀井節夫教授らによりマレーガビアルの一種としてトミストマ・マチカネンセ( Tomistoma machikanense )と命名されました。
その後、1983年にワニの専門家である青木良輔氏が再研究し、マレーガビアルとは異なる属である事が分かった為、日本神話に登場するワニの化身である女神トヨタマヒメに因んでトヨタマヒメイア・マチカネンシス( Toyotamaphimeia machikanensis )として再記載され、現在にいたるという事です。
※青木氏の説として個人的にとても面白いと思ったのが、龍=ワニという説です。中国ではその昔、10mクラスのワニが生息していて、これを龍と呼んでいたが、寒冷化でいなくなってしまった。その後、温暖化でより小さなワニが進出して来た際、これを蛟と呼んでいた。さらに寒冷化で撤退、温暖化で再進出した時に、呼称が鰐になったのではないか、というのです。後漢の頃の書物、「広州異物志」という本に、吻部が7尺(約2m)もある鰐の話が載っているそうです。広東省の博物館に宋時代の大きなワニの頭骨が展示されているそうですが、青木氏の同定でマチカネワニの頭骨だった事がわかっている様です。となると、マチカネワニは結構最近まで生き残っていた事になりますね。
話が大幅に脱線してしまいました。
マチカネワニは近年も様々な機関が参加して研究が継続されており、色々な事が判明しています。2006年に大阪大学、北海道大学、国立科学博物館が共同研究した結果、マチカネワニはマレーガビアルに最も近縁で、クロコダイル科の中のマレーガビアル亜科に含まれるとされました。
また、マレーガビアル亜科の源流は約5700万年前のヨーロッパにあり、そこからアフリカやアジアに広がっていったものと推測されているそうです。最も古い種のケンティスクスはイギリスで発見されています。
2004年には岐阜県立博物館の桂嘉志浩博士が古病理学的な研究を行って発表しています。
それによりますと、マチカネワニの下顎は先端の1/3がなくなっていたのですが、その断面はなめらかであったことから治癒した痕であると判断されました。この個体は下顎の1/3を失う怪我を負った後も生存していたという事です。
また、右の後肢(腓骨と脛骨)に骨折の治癒痕が残っていました。さらに背中の鱗骨の1枚に約1.7cmと2.7cmの孔が開いていたと言います。この穴の径はマチカネワニの歯のそれに一致する事から、総合的に考えてマチカネワニ同士の闘争で怪我を負ったと判断されました。
また、現生ワニがメスを巡ってオスが喧嘩する事から、MOUF00001はオスの化石である可能性が高いとも推測されるそうです。
しかし、下顎を1/3も失って生きていく事ができるものでしょうか。
現生のオースラリアに生息するワニで、下顎を1/3失いながら18年間生存していたワニの記録があるそうです。このワニは高速道路で引かれた動物の死骸と精肉工場から出る使わない肉のゴミを漁っていたそうです。
そうなりますと、MOUF00001は下顎の怪我をした後は腐肉等で生きていたのかもしれません。また、他の動物に捕食されなかったのは、その当時の日本において、マチカネワニが最上位の捕食者であった為であろうと考えられます。
もう1つ凄いのは、それ程の怪我をしながら感染症になっていない事。
ワニの免疫力は凄まじく、現生種も喧嘩で怪我を負った状態で、汚い水に浸かっても細菌による感染症を引き起こさないと言います。また、HIVウィルスの研究にも期待されているとか。
マチカネワニも現生のワニと同じく、強力な免疫機能を持っていたという事ですね。
参考文献:「ニュートンムック 骨格から探る生き物のふしぎ ビジュアルブック 骨」ニュートンプレス、「メガ恐竜展2015 巨大化の謎にせまる」図録、Wikipedia「マチカネワニ」、「ワニ」、「Tomistominae」
マチカネワニとは和名で、学名はトヨタマヒメイア・マチカネンシス( Toyotamaphimeia machikanensis )と言います。Wikipedia等に詳しく書いてあるので、ここで私がグダグダと書き連ねるのもなんですが、ザッと概要を書いてみたいと思います。

マチカネワニの想像図。口先が細く魚がメインディッシュに見えますが、
哺乳類も襲っていた可能性が指摘されています。
マチカネワニの化石MOUF00001は1964年に大阪府豊中市の待兼山丘陵で発見されました。ここは大阪大学のキャンパス内で、理学部の新校舎の建設現場で見つかったそうです。
直ぐに大阪大学や京都大学から多数のメンバーがあつまり、計4回の発掘が実施され、尾の大部分は欠けているものの、ほぼ全身の骨格が揃ったそうです。頭骨は105cmあり、発掘当時は全長8mと推定されましたが、後に7m弱と下方修正されています。推定体重は1.3tと言いますので、現生のワニと比較すると、かなり大きなワニですね。
発見された地層は大阪層群上部の茨木累層で、更新世の頃の地層だそうです。大よそ38~42万年前位の地層という事ですが、55万年前くらいであるという意見もあるとか。植物化石の分析から当時の気候は寒冷期から温暖期に移行する時期であり、現代とさほどに変わらなかった事が判明しています。マチカネワニは現代では珍しい温帯性のワニであったと考えられています。

マチカネワニの復元骨格。「メガ恐竜展2015」にて。
他にも大阪市立自然史博物館や豊橋市自然史博物館、飯田美術博物館など
複数の施設で見る事ができます。
本種は発見当初は頭骨の特徴が現生種のマレーガビアル(学名はTomistoma schlegelii。クロコダイル科、ガビアルモドキともいう。 )と良く似ていたので、1965年に京都大学の亀井節夫教授らによりマレーガビアルの一種としてトミストマ・マチカネンセ( Tomistoma machikanense )と命名されました。
その後、1983年にワニの専門家である青木良輔氏が再研究し、マレーガビアルとは異なる属である事が分かった為、日本神話に登場するワニの化身である女神トヨタマヒメに因んでトヨタマヒメイア・マチカネンシス( Toyotamaphimeia machikanensis )として再記載され、現在にいたるという事です。
※青木氏の説として個人的にとても面白いと思ったのが、龍=ワニという説です。中国ではその昔、10mクラスのワニが生息していて、これを龍と呼んでいたが、寒冷化でいなくなってしまった。その後、温暖化でより小さなワニが進出して来た際、これを蛟と呼んでいた。さらに寒冷化で撤退、温暖化で再進出した時に、呼称が鰐になったのではないか、というのです。後漢の頃の書物、「広州異物志」という本に、吻部が7尺(約2m)もある鰐の話が載っているそうです。広東省の博物館に宋時代の大きなワニの頭骨が展示されているそうですが、青木氏の同定でマチカネワニの頭骨だった事がわかっている様です。となると、マチカネワニは結構最近まで生き残っていた事になりますね。
話が大幅に脱線してしまいました。
マチカネワニは近年も様々な機関が参加して研究が継続されており、色々な事が判明しています。2006年に大阪大学、北海道大学、国立科学博物館が共同研究した結果、マチカネワニはマレーガビアルに最も近縁で、クロコダイル科の中のマレーガビアル亜科に含まれるとされました。
また、マレーガビアル亜科の源流は約5700万年前のヨーロッパにあり、そこからアフリカやアジアに広がっていったものと推測されているそうです。最も古い種のケンティスクスはイギリスで発見されています。
2004年には岐阜県立博物館の桂嘉志浩博士が古病理学的な研究を行って発表しています。
それによりますと、マチカネワニの下顎は先端の1/3がなくなっていたのですが、その断面はなめらかであったことから治癒した痕であると判断されました。この個体は下顎の1/3を失う怪我を負った後も生存していたという事です。
また、右の後肢(腓骨と脛骨)に骨折の治癒痕が残っていました。さらに背中の鱗骨の1枚に約1.7cmと2.7cmの孔が開いていたと言います。この穴の径はマチカネワニの歯のそれに一致する事から、総合的に考えてマチカネワニ同士の闘争で怪我を負ったと判断されました。
また、現生ワニがメスを巡ってオスが喧嘩する事から、MOUF00001はオスの化石である可能性が高いとも推測されるそうです。
しかし、下顎を1/3も失って生きていく事ができるものでしょうか。
現生のオースラリアに生息するワニで、下顎を1/3失いながら18年間生存していたワニの記録があるそうです。このワニは高速道路で引かれた動物の死骸と精肉工場から出る使わない肉のゴミを漁っていたそうです。
そうなりますと、MOUF00001は下顎の怪我をした後は腐肉等で生きていたのかもしれません。また、他の動物に捕食されなかったのは、その当時の日本において、マチカネワニが最上位の捕食者であった為であろうと考えられます。
もう1つ凄いのは、それ程の怪我をしながら感染症になっていない事。
ワニの免疫力は凄まじく、現生種も喧嘩で怪我を負った状態で、汚い水に浸かっても細菌による感染症を引き起こさないと言います。また、HIVウィルスの研究にも期待されているとか。
マチカネワニも現生のワニと同じく、強力な免疫機能を持っていたという事ですね。
参考文献:「ニュートンムック 骨格から探る生き物のふしぎ ビジュアルブック 骨」ニュートンプレス、「メガ恐竜展2015 巨大化の謎にせまる」図録、Wikipedia「マチカネワニ」、「ワニ」、「Tomistominae」
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