ティラノサウルス科_タルボサウルス(1) 発見と命名

タルボサウルスの想像図。

　第2次世界大戦後の1946～1949年、ソ連科学アカデミー古生物学研究所がモンゴルに遠征し、ゴビ砂漠のネメグト盆地の白亜紀後期(マーストリヒト期初期、約7000万年前頃)の地層からティラノサウルス類の化石を収集しました。この時、遠征隊に参加した科学者にはユーリ･オルロフ博士、イワン･エフレモフ博士、アナトリー･ロジェストヴェンスキー博士、エフゲニー･マレーエフ博士、ネストル･ノヴォジロフ博士といった古生物学者、地質学者がいます。

　1955年にマレーエフ博士により採取された化石の記載が行われました。採取された化石には、ティラノサウルスの頭骨(AMNH5027)よりもやや大きいもの(当時は全長14～15mと推測された)、全長10～12mの完全な骨格、全長9mの断片的な骨格、全長6mの不完全な頭骨とかなり揃った体からなる骨格と4種類ある様に見えました。マレーエフ博士は、一番大きな化石をティラノサウルス･バタール(種小名はモンゴル語の英雄という言葉に由来)、2番目に大きな個体をタルボサウルス･エフレモヴィ(警告するトカゲの意味、種小名はエフレモフ博士に献名)、3番目に大きな個体にゴルゴサウルス･ランシナトル(切り裂く恐ろしいトカゲの意味)、一番小さな個体にゴルゴサウルス･ノヴォジロヴィ(種小名はノヴォジロフ博士に敬意を表して付けられた)と名付けました。

　しかし1965年にロジェストヴェンスキー博士はそれらの恐竜は全て同じ種類のもので、異なる成長段階のものに違う名前を付けているとし、またティラノサウルスによく似ているものの異なる属である事から、属名はタルボサウルス、種小名はバタールとして統合しました。ここで、タルボサウルス･バタールTarbosaurus bataalが確立したのです。

　タルボサウルス･バタールはティラノサウルスと非常に良く似ているので、同じ属とする研究者もいますが(グレゴリー･ポール博士やケン･カーペンター博士)、頭骨の幅が比較的狭い、上あごの骨(上顎骨)が目の穴(眼窩)の前の開口部(前眼窩窓)を形成する部分にうねが発達している、前脚の肘から先の部分が短い、等の特徴から別属とするのが主流です。また、下顎の骨(歯骨と角骨)の関節の仕方がティラノサウルスと異なるそうです。これは採食行動の違いを示しているともされます。


群馬県の神流町恐竜センターのタルボサウルスの骨格。多分、日本一見やすいです。

　タルボサウルスは発見当時から色々な成長段階の化石が発見されていますが、先に見た通り、成長段階の相違によって別属として命名された経緯があります。中国新疆ウイグル自治区で発見された2～3歳の子供と思われる個体にはシャンシャノサウルスという名が付けられた事があります。ゴルゴサウルス･ノヴォジロヴィとされた個体は、1992年にケン･カーペンター博士によってマレーヴォサウルスと名付けられました。1995年にはアメリカの恐竜研究家ジョージ･オルシェフスキー氏が、最も大きい個体に「ジンギスカン･バタール」と名付けた事もありますが、現在では皆タルボサウルス･バタールにまとめられています。

参考文献：「恐竜学最前線9」　学研、「肉食恐竜辞典」　グレゴリー･ポール著　河出書房新社、「大恐竜展　ゴビ砂漠の驚異」図録