幻獣の名を冠する古生物シリーズ2 マチカネワニ(2)_元ネタ
- 2016/01/03
- 18:02
昨年末にマチカネワニの話をしてみましたので、今回はその名の元ネタであるトヨタマヒメについて。
トヨタマヒメは古事記では「豊玉毘売」、日本書紀では「豊玉姫」と表記されるそうで、【豊玉】という字から、勾玉と関係があり、勾玉の産地であった出雲とも関連する女神ではないかと考えられるそうです。

古事記によると、トヨタマヒメは山幸彦(ホオリノミコト=火遠理命)の妻で、海を支配する神オオワタツミ(綿津見大神)の娘であったそうです。
ちょっと脱線しますが、山幸彦について少々。
アマテラスがオオクニヌシに国を譲るよう要請し、オオクニヌシがこれを飲んだ所謂天孫降臨の際、地上を統治する為に遣わされたのがアマテラスの孫にあたるホノニニギです。この神は、山の神様であるオオヤマツミの娘、コノハナサクヤヒメを妻とし、海幸彦(ホデリノミコト=火照命)、火須勢理命(ホスセリノミコト)、山幸彦(ホオリノミコト=火遠理命)の3人の子供を得ました。
コノハナサクヤヒメは一夜にして子供を身籠った為、天津神ではなく、国津神ではないかと疑われた事から、身の潔白を証明する為、燃え盛る炎の中で子供を出産したとされます。この為、3柱の子神には"火"の字が入っているとか。
さて、以下は有名なエピソードです。
海幸彦はその名の通り、海で漁を得意とする神さまで、弟の山幸彦は山で狩りを行う神さまであったそうです。ある時、山幸彦は兄に「たまには道具を交換して、違うものが採ってみたい」と言う様な提案をします。海幸彦は断りますが、山幸彦が譲らないので、しょうがなく3回目の問答で道具の交換を承諾したそうです。
兄の釣り針を借りる事に成功した山幸彦は、海に出かけると釣りを始めましたが、1匹も釣れないどころか、釣り針を紛失してしまいました。海幸彦に謝罪しますが(自分の剣から新しい針を1000個作って贈ったとも)、許してもらえず、元も針が良いと聞き入れてくれません。
困ってしまった山幸彦が浜辺で黄昏ていると、潮流の神がやって来て訳を尋ねます。理由を話すと、「それなら海神オオワタツミの宮殿へ行け」と言って案内してくれました。
山幸彦がオオワタツミの宮殿に着くと、その姿を見たトヨタマヒメは彼に一目ぼれしてしまいます(相当イケメンだったのか)。オオワタツミも山幸彦を見て、「彼は天神の血筋だから」と言ってすぐに娘を結婚させました(オヤジはオヤジで、玉の輿狙いか)。
山幸彦は宮殿で楽しく3年間過ごします。で、3年経ってようやく「自分が何故ここに来たのか」を思いだします(オイ
海幸彦の釣り針は鯛の喉に引っかかっていました。オオワタツミは山幸彦に針と「水を自在に操る宝珠と呪文」を授けます。山幸彦はこの宝珠を用いて、「兄の田んぼに水が行かない様にし、怒った兄が攻めてくると水で溺れさせる」という執拗なイヤガラセを繰り返し行います。最終的に海幸彦は山幸彦に服従することとなりました。
この山幸彦のエピソードは浦島太郎の原型だという事です。
※このエピソード、どう考えても弟が悪い様な。自分、弟はいませんが、自分の物貸したら紛失された上に、イヤガラセしてくるとか、縁きりますわ。
さてさて、ようやく話はトヨタマヒメに移ります。
山幸彦の子を身籠ったトヨタマヒメは、海辺に産屋を立て、そこで出産しようとします。産屋の屋根を鵜の羽で覆うという安産のお呪いをしている最中に産気づいてしまい、たまらず産屋に入ります。
この際、山幸彦に「異国の者は、出産する時は本国の姿になって子を産むので、決して覗かない様に!!」と念押ししました。しかし山幸彦は訝しんで産屋を覗いてしまいます。すると、八尋(=非常に大きい、長いの意)のワニが蠢いていました。山幸彦はビビッて逃げ出しました。覗かれた事を知ったトヨタマヒメは恥ずかしさと怒りで、生まれた子供をほっぽり出して海の国へ帰ってしまいます。
生まれた子供はヒコナギサタケウガヤフキアエズ(天津日高日子波限建鵜草葺不合命)と言いますが、トヨタマヒメが実家に帰ってしまった為、その妹のタマヨリヒメ(玉依毘売命)によって育てられます。後に育ての親であるタマヨリヒメを妻とし、4柱の子を儲けますが、末っ子のカムヤマトイワレヒコ(神日本磐余彦尊)は後の神武天皇とされます。
このエピソードは、民俗学において【見るなのタブー】に分類される典型の様です。他国の神話だと、ギリシャ神話のオルフェウスの話や、旧約聖書のソドムとゴモラの話等に見るなと言われたのに見てしまって破滅を迎える話がある様です。
また、タマヨリヒメがワニであった部分は【異類婚】に分類され、これまた世界中に伝承されているそうです。何の動物が嫁いでくるのかは、その伝承が伝わる地域の自然環境や社会と関連しているそうで、それらの動物は一種の聖獣である場合が多く、生まれてくる子供も特異な力を持つ英雄として語られる事が多い様です。安倍清明もキツネの子とされていて、やはり【異類婚】と【見るなのタブー】を内包した物語となっています。
参考文献:「世界神話辞典 世界の神々の誕生」大林太良、伊藤清司、古田敦彦、松村一男 編 角川ソフィア文庫、「世界神話辞典 創世神話と英雄伝説」大林太良、伊藤清司、古田敦彦、松村一男 編 角川ソフィア文庫、Wikipedia「トヨタマヒメ」
トヨタマヒメは古事記では「豊玉毘売」、日本書紀では「豊玉姫」と表記されるそうで、【豊玉】という字から、勾玉と関係があり、勾玉の産地であった出雲とも関連する女神ではないかと考えられるそうです。

古事記によると、トヨタマヒメは山幸彦(ホオリノミコト=火遠理命)の妻で、海を支配する神オオワタツミ(綿津見大神)の娘であったそうです。
ちょっと脱線しますが、山幸彦について少々。
アマテラスがオオクニヌシに国を譲るよう要請し、オオクニヌシがこれを飲んだ所謂天孫降臨の際、地上を統治する為に遣わされたのがアマテラスの孫にあたるホノニニギです。この神は、山の神様であるオオヤマツミの娘、コノハナサクヤヒメを妻とし、海幸彦(ホデリノミコト=火照命)、火須勢理命(ホスセリノミコト)、山幸彦(ホオリノミコト=火遠理命)の3人の子供を得ました。
コノハナサクヤヒメは一夜にして子供を身籠った為、天津神ではなく、国津神ではないかと疑われた事から、身の潔白を証明する為、燃え盛る炎の中で子供を出産したとされます。この為、3柱の子神には"火"の字が入っているとか。
さて、以下は有名なエピソードです。
海幸彦はその名の通り、海で漁を得意とする神さまで、弟の山幸彦は山で狩りを行う神さまであったそうです。ある時、山幸彦は兄に「たまには道具を交換して、違うものが採ってみたい」と言う様な提案をします。海幸彦は断りますが、山幸彦が譲らないので、しょうがなく3回目の問答で道具の交換を承諾したそうです。
兄の釣り針を借りる事に成功した山幸彦は、海に出かけると釣りを始めましたが、1匹も釣れないどころか、釣り針を紛失してしまいました。海幸彦に謝罪しますが(自分の剣から新しい針を1000個作って贈ったとも)、許してもらえず、元も針が良いと聞き入れてくれません。
困ってしまった山幸彦が浜辺で黄昏ていると、潮流の神がやって来て訳を尋ねます。理由を話すと、「それなら海神オオワタツミの宮殿へ行け」と言って案内してくれました。
山幸彦がオオワタツミの宮殿に着くと、その姿を見たトヨタマヒメは彼に一目ぼれしてしまいます(相当イケメンだったのか)。オオワタツミも山幸彦を見て、「彼は天神の血筋だから」と言ってすぐに娘を結婚させました(オヤジはオヤジで、玉の輿狙いか)。
山幸彦は宮殿で楽しく3年間過ごします。で、3年経ってようやく「自分が何故ここに来たのか」を思いだします(オイ
海幸彦の釣り針は鯛の喉に引っかかっていました。オオワタツミは山幸彦に針と「水を自在に操る宝珠と呪文」を授けます。山幸彦はこの宝珠を用いて、「兄の田んぼに水が行かない様にし、怒った兄が攻めてくると水で溺れさせる」という執拗なイヤガラセを繰り返し行います。最終的に海幸彦は山幸彦に服従することとなりました。
この山幸彦のエピソードは浦島太郎の原型だという事です。
※このエピソード、どう考えても弟が悪い様な。自分、弟はいませんが、自分の物貸したら紛失された上に、イヤガラセしてくるとか、縁きりますわ。
さてさて、ようやく話はトヨタマヒメに移ります。
山幸彦の子を身籠ったトヨタマヒメは、海辺に産屋を立て、そこで出産しようとします。産屋の屋根を鵜の羽で覆うという安産のお呪いをしている最中に産気づいてしまい、たまらず産屋に入ります。
この際、山幸彦に「異国の者は、出産する時は本国の姿になって子を産むので、決して覗かない様に!!」と念押ししました。しかし山幸彦は訝しんで産屋を覗いてしまいます。すると、八尋(=非常に大きい、長いの意)のワニが蠢いていました。山幸彦はビビッて逃げ出しました。覗かれた事を知ったトヨタマヒメは恥ずかしさと怒りで、生まれた子供をほっぽり出して海の国へ帰ってしまいます。
生まれた子供はヒコナギサタケウガヤフキアエズ(天津日高日子波限建鵜草葺不合命)と言いますが、トヨタマヒメが実家に帰ってしまった為、その妹のタマヨリヒメ(玉依毘売命)によって育てられます。後に育ての親であるタマヨリヒメを妻とし、4柱の子を儲けますが、末っ子のカムヤマトイワレヒコ(神日本磐余彦尊)は後の神武天皇とされます。
このエピソードは、民俗学において【見るなのタブー】に分類される典型の様です。他国の神話だと、ギリシャ神話のオルフェウスの話や、旧約聖書のソドムとゴモラの話等に見るなと言われたのに見てしまって破滅を迎える話がある様です。
また、タマヨリヒメがワニであった部分は【異類婚】に分類され、これまた世界中に伝承されているそうです。何の動物が嫁いでくるのかは、その伝承が伝わる地域の自然環境や社会と関連しているそうで、それらの動物は一種の聖獣である場合が多く、生まれてくる子供も特異な力を持つ英雄として語られる事が多い様です。安倍清明もキツネの子とされていて、やはり【異類婚】と【見るなのタブー】を内包した物語となっています。
参考文献:「世界神話辞典 世界の神々の誕生」大林太良、伊藤清司、古田敦彦、松村一男 編 角川ソフィア文庫、「世界神話辞典 創世神話と英雄伝説」大林太良、伊藤清司、古田敦彦、松村一男 編 角川ソフィア文庫、Wikipedia「トヨタマヒメ」
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