タラッソドロメウス・セティ(
Thalassodromeus sethi タラソドロメウス、サラソドロメウスとも )は、ブラジルのセアラ州アラリペ盆地のサンタナ層( 下からクラトー、イプビ、ロムアルドの3層からなり、タラッソドロメウスは上部のロムアルド層から出土。白亜紀前期、およそ1億800万年前、オーブ期頃? )で発見されたアズダルコ上科タペジャラ科の翼竜で、2002年にアレクサンダー・ケルナー博士らによって記載されました。この名はギリシャ語の”海”と”走者”の組み合わせで、「海を走るもの」といった様な意味です。翼を広げた翼長は4.5mと推定され、アラリペ盆地から発見されている翼竜の中では大きい方との事です。
タラッソドロメウスの想像図。
復元骨格。科博で開催された「大恐竜展 知られざる南半球の支配者」より。
種小名のセティは、エジプト神話に登場する悪神
セト に因みます。これはタラッソドロメウスが非常に大きなトサカを持つ様を、大きな冠を頂く
セト神( Set ) になぞらえての事だそうですが、2006年にアンドレ・J・Veldmeijer博士( ちょっと読み方がわかりませんが、古生物学だけではなく、エジプトに関する考古学もやっておられる方みたいです )によって、
アメン神 の冠の方が似ていて、ケルナー博士たちは
セト神 と混同しているとのツッコミが入ったそうです。
タラッソドロメウスの特徴の1つに『下顎の先端がハサミの様になっている事』があります。下顎は非常に細長く、上顎とぴったり閉じる構造になっており、現生鳥類のハサミアジサシに似ていると言います。
ハサミアジサシは下のクチバシを水中に突っ込みながら餌を採るので、タラッソドロメウスも同じ様な方法を採用していた可能性があると考えたケルナー博士らは、ここから「海を走るもの」という名前を考えたそうです。しかし、2007年のスチュアート・ハンフリーズ博士らの研究では、水の抵抗を計算すると、体重が1kg以上の動物がクチバシを水中に突っ込んだまま飛ぶのは困難であるとの事で、タラッソドロメウスがハサミアジサシの様な採餌を行っていた可能性は低そうです。
頭骨を正面から。凄い薄さですね。クチバシを水中に突っ込んだまま飛んだ、と想像するのも無理はないかも。福井県立恐竜博物館で開催された「翼竜の謎-恐竜が見あげた「竜」」より。
もう一つの特徴としては、頭部の巨大なトサカが挙げられます。ホロタイプDGM 1476-Rは不完全な頭骨ですが長さ1.42mに達し、横から見た場合、頭の75%がトサカで占められています。脊椎動物の中では最も大きなトサカを持っているものの一つなんだとか。頭部との相対的なサイズで言えば、トゥパンダクティルス( =タペジャラ・インペラトール )に次いで2番目に大きいそうです。
トサカの表面には枝分かれした溝が走っており、血管の痕であると考えられています。大きなトサカに血管が張り巡らされているという事は、トサカに風を当てるなどして体温調節を行っていたのではないかと推測される様です。これは翼竜がトサカを体温調節に使用していた最初の証拠であり、またこの様な大きなトサカで体温を発散させる必要があるという事は恒温動物であった間接的な証拠でもあるとされます。
しかしながら、ディメトロドンやエダフォサウルス等の変温動物と思われる単級類でも大きな帆を発達させたりしていますし、どうなんでしょうね。素人考えですが翼竜の場合、翼を広げれば勝手に体温が奪われると思うのです。他の役割として、種の認識や性的ディスプレイ、空気力学的な役割等もあった可能性が指摘されていて、そのどれもがあり得そうですね。
ホロタイプの他にDGM 1476-Mとナンバリングされた下顎の断片が発見されており、こちらはホロタイプよりも一回り大きく、翼長5.3mと推定されているそうです。あれだけ頭が大きいと、それなりに大きな翼がないと飛ぶのは難しそうですよね。あと、横風にすごく弱そう。突風が吹いたりすると、首をひねってしまうんじゃないかって、いらぬ心配をしてしまいます。
参考文献:「大恐竜展 知られざる南半球の支配者」図録、「翼竜の謎-恐竜が見あげた「竜」」図録、Wikipedia「
Thalassodromeus 」
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