ノコギリエイを捕獲しようとしているスピノサウルスの想像図。 最初の恐竜は、ジュラシックパーク3で有名になったスピノサウルス_
Spinosaurus についてお話してみたいと思います。
スピノサウルスはエジプトの白亜紀前期の地層から発見された化石をもとに、1912年にドイツの古生物学者エルンスト・シュトローマー博士により
スピノサウルス・アエギプティアクス_Spinosaurus aegyptiacusと命名されました。この名前は「棘のトカゲ」という意味で、長く伸びた背骨の棘突起に由来します。しかし、この化石は、第2次世界大戦中に爆撃によって破壊されてしまいました。
それでもスピノサウルスが背中に帆の様な構造を持った巨大な獣脚類であることは後世に伝わる事になりました。その謎に包まれた姿に沢山の古生物学者が魅せられ、アメリカ、フランス、イタリア、ドイツ等の研究者がアフリカで化石を探し回ることになったのです。
そうこうしているうちに、イギリスでバリオニクス
_Baryonyx walkeri というワニの様な細長い頭と前脚に巨大な爪を持つ恐竜が発見されました。この恐竜のアゴの骨がスピノサウルスのものと良く似ていた為、スピノサウルスもワニの様に長い顔を持つ魚を食べる恐竜である事がわかってきたのです。
バリオニクスの想像図。
最近では福井県立恐竜博物館が全身骨格のレプリカを所蔵していて、時々展示される様になりました。 しかし、全身を復元するにはまだまだ骨が足りませんでした。2014年、ドイツの古生物学者ニザール・イブラハム博士はこれまでに見つかった骨、シュトローマー博士が残した論文、近い仲間の知識を総動員して新しい復元像を発表しました。 それは従来考えられていたよりも短足で、陸上では4本足でなければ歩けなかったと言います。
この説に従って復元された全身骨格がナショナルジオグラフィックミュージアムという所に展示されていますが、それはそれは見事に短足です。リンク先を見てみて下さい。何と言うか、ダックスフンドみたいですよね。スピノサウルス類は元々、あまり足が長くないと言われていましたけど、いくら何でも、これは…
2016年、とうとう日本でも公開されました!いやー、カッコいいですね~。
国立科学博物館で開催された【恐竜博2016】より。
短足復元の骨格から生きていた時を妄想。ナックルウォークしてたかも!? イブラヒム博士の研究によると、四肢の骨密度が高くなっていて、これは水中で体が浮いてしまわない様にする為の適応と考えられます。目も鼻も頭の高い位置にありますが、これはワニの様に体の一部以外を水中に沈められる様にする為ではないかと考えられます。これらを総合的に考えると、スピノサウルスはほぼ水生であったと結論付けられたのです。
しかし、科学の世界では当然のことですが、この復元にはすぐに反論が出ました。イブラハム博士が使用した標本は、まだ若い個体のもので、腰から脚にかけての骨が、大人に比べて25%くらい小さかったのではないかと言うのです。そうなると、後足はもう少し長かった事になります。
2016年になって、色々と反論が出ている様ですね。何でも、セレノ博士とイブラヒム博士はケムケムから発見されたスピノサウルス類の化石を、どれもこれもスピノサウルス・アエギプティアクスにブチ込んだ様ですが、実際にはスピノサウルス・アエギプティアクスとシギルマッササウルス( Sigilmassasaurus brevicollis )という別のスピノサウルス類、さらにそのどちらでもないかもしれない第3のスピノサウルス類が含まれている可能性があるとか。
そもそも、スピノサウルス・アエギプティアクスを記載したシュトローマー博士がスピノサウルスBと暫定的に呼んでいた(後年にはスピノサウルスじゃないって言ってたらしい)一回り小さい個体の腰や後ろ脚もスピノサウルス・アエギプティアクスに組み込んじゃった為に異様に短足なんじゃないかとかいう話みたいです。そうなると、2009年の【砂漠の奇跡】で展示された下のスピノサウルスの方が実像に近いんでしょうか?


うん、こっちの方がシックリきますよね。
また、スピノサウルスの仲間で後脚が見つかっているバリオニクスやスコミムス等では、他の獣脚類と比べると短いものの、イブラヒム博士の復元の様に極端に短くはありません。2015年に福井県立恐竜博物館で開催された特別展「南アジアの恐竜時代」で展示されたイクチオヴェナトルも腰の骨がしっかりしていて、後脚が短い様には思えませんでしたし。
また、2009年に幕張メッセで開催された「恐竜博2009-砂漠の奇跡」に展示されたモロッコ産のスピノサウルス.spとされる組立骨格でも、亜成体とは言え、そんなに足短くなかったです。
「恐竜博2009-砂漠の奇跡」に展示されたモロッコ産のスピノサウルス.spと、その想像図。
正直、こっちであって欲しいです。 スピノサウルスの本当の姿が明らかになるのは、まだ先のことみたいですね。
※2015.10.13に、ブログ開設1年を記念して、ちょこっと手直し。 最近、シギルマッササウルスがにわかに注目されている感があります。クリスタトゥサウルス( Cristatusaurus lapparenti )も忘れないでね。
2016.08.08チョコチョコと追記参考文献:Dino Press Vol.4 オーロラ・オーバル社、ナショナルジオグラフィック2014年10月号
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