ティラノサウルス科_ナノティランヌス
- 2014/11/12
- 22:54

現在ナノティランヌスの模式標本(CMN7541)とされる化石は、1942年に採取され、1946年にアメリカの国立自然史博物館のチャールズ・ギルモア博士によりゴルゴサウルス・ランセンシスと命名された後、長い間クリーヴランド博物館に置かれていました。1988年にコロラド大学のロバート・バッカー博士らにより子細に再検討された結果、頭骨のてっぺんがゴルゴサウルス風に石膏で復元されており、ゴルゴサウルスとは異なる新種である事が分かった為、バッカー博士らはこの頭骨をナノティランヌス・ランセンシス_Nanotyrannus lancensis (ランス層から見つかった小さな暴君の意味)として再記載しました。ちなみに、最初は「クリーヴラノティランヌス」という名前にするつもりだった様ですが、論文発表直前で気が変わった様です。

ナノティランヌスとされる頭骨。
1990年、当時としては珍しくこの頭骨はCTスキャンを使用して研究が行われました。バッカー博士はCT画像から神経の通り方が恐竜と鳥で非常に似通っている事を確信しました。また鼻腔に鼻甲介という嗅覚を良くする為の薄くカールした骨構造が恐竜で初めて発見されました。鼻甲介はその表面に沢山の臭気を感じる細胞が付着して匂いを感じる能力を上昇させる器官です(その後は別のティラノサウルス類でも発見されているらしいですが、ティラノサウルス類は脳の嗅球が大きいので、この様な適応も納得できます)。
ナノティラヌスの頭骨は個々の骨が融合していることから大人であると判断され、大きくなっても5m強の小型のティラノサウルス類であるとされました。しかし1999年にトーマス・カー博士によりCMN7541は亜成体であることが示され、これにより多くの研究者がナノティラヌスはティラノサウルスの子供であると考えるようになったのです。別属であると主張する研究者はナノティラヌスの歯がティラノサウルスよりも多く、また歯の形状も異なる事を挙げていますが、ティラノサウルスは成長するに従い歯が減少し、太くなるとする研究結果もあります。2002年にモンタナ州のヘルクリーク層(マーストリヒト期最上部、6550万年前)から発見された全長約7mと見積もられるティラノサウルス類は、「ジェーン」という愛称がつけられ、現在はイリノイ州のバーピー自然史博物館に展示されていますが、ナノティランヌスなのかティラノサウルスの子供なのか意見が別れています。この個体も上顎骨の歯が多い、方形頬骨(後側頭窓の後ろの骨)に穴が開いている等、ナノティランヌスと同じ特徴がみられるそうです。


日本でも公開された事のある「ジェーン」。半端なく後足が長く、素早く動けた事が窺えます。
その後、近縁種のタルボサウルスの研究により、成長に伴う歯の減少は見られないとの結果が出され、やはり歯の数は種類の違いを反映している可能性が高くなってきました。また、モンタナ州で発見された角竜と絡み合ったまま化石化したティラノサウルス類がありますが、これも頭骨の特徴からナノティランヌスではないかと推定されています。この化石では完全な腕が残っていますが、ティラノサウルスに比べて手の部分が非常に大きく、爪(末節骨)もかなり大きいという差があるそうです。

モンタナ州で発見された闘争化石の頭骨。細長く、華奢な印象です。
これらの情報を総括して、最近ではやはりティラノサウルスとは別種であるとの考えが主流になってきている印象です。
参考文献:「ニュートン別冊 地球がわかる本」教育社、「恐竜学最前線9」学研、「恐竜の復元」学研、「恐竜2009 砂漠の奇跡」図録
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