
1971年にアメリカはテキサス州ビッグベンド国立公園の白亜紀の地層から、当時テキサス大学オースチン学の生徒だったダグラス・A・ラーソン博士により発見されました。当初、恐竜の骨ではないかと思ったラーソン博士は指導教官のワン・ラングストン・ジュニア博士に化石を見せたところ、ラングストン博士もまた恐竜の化石であると推測したそうです。しかし、何の恐竜のどこの骨か分からなかったと言います。たまたまラングストン博士がカナダの博物館を訪れた際、当該の化石が翼竜の上腕骨に良く似ている事に気付き、とんでもなく巨大な翼竜の化石である可能性が出てきました。
ラングストン博士らはラーソン博士が化石を見つけた場所を詳しく調査し、手首の骨、第4指の骨等を発見しましたが酷く損壊しており復元には長い時間がかかったそうです。最初に発見された個体の半分ほどのサイズの化石も幾つか発見されているそうです。また、1996年にほぼ完全な頭骨を含む5.5m程の個体がラングストン博士とアレクサンダー・ケルナー博士によって報告されており、ケツァルコアトルス sp.とされています。

「翼竜の謎-恐竜が見あげた「竜」」で展示されたケツァルコアトルス sp.。
当初、その翼長は15.5~21mにも達するのではないかと推定され、史上最大の飛行生物と考えられたこの動物は、1975年にケツァルコアトルス・ノルトロピ(
Quetzalcoatlus northropi )と名付けられました。属名はアステカ神話の最高神で翼を有する蛇として表されるケツァルコアトル神に、種小名は航空機製造会社のノースロップに因んで命名されました。
発見当初、ケツァルコアトルスの系統関係は不明でした。他に似ている種類が発見されていなかった為だそうです。ロシアの古生物学者レフ・ネソフ博士がウズベキスタンで発見し1984年に記載したアズダルコ(
Azhdarcho lancicollis )によって系統関係が判明してきました。また、ネソフ博士はヨルダンで発見されていた”ティタノプテリクス”の化石が、ケツァルコアトルスの頸椎と良く似ているのを発見しアランボウギアニア(
Arambourgiania philadelphiae )と改名しました。これら3種をまとめてアズダルコ科としています。アズダルコ科は翼竜の中において最も進化した系統で、タラッソドロメウス類やタペジャラ類と近縁です。また、最も遅くまで生息していた翼竜の系統でもあります。
その後、アズダルコ科の翼竜の化石は世界中から発見されており、ルーマニアではハツェゴプテリクス、アメリカではモンタナズダルコ、中国からチェージャンゴプテルス、エオアズダルコ等が命名されています。他にもスペイン、フランス、ロシア、アフリカ、オーストラリア、日本からも見つかっており、中生代の最終期に世界中で繁栄したグループであった様です。
こうしてケツァルコアトルスの近縁種が発見されてくると、そのサイズの見積もりが大きすぎた事が分かってきました。元々プテラノドンの様な細長い翼で復元されていましたが、中国で発見されたチェージャンゴプテルスの発見により、アズダルコ科の翼竜は翼があまり長くない事が判明したのです。再度推定されたケツァルコアトルスの翼長は凡そ10mと見積もられています。また、アランボウギアニアやハツェゴプテリクス等、ケツァルコアトルスと同等、或はより大きいと考えられる翼竜も発見されており、「史上最大の」というタイトルも怪しくなってきており、「史上最大級の」という言い方をされる様になっています。
この様に巨大な空飛ぶ怪物達はどんな生態をしていたのでしょうか。彼らの生態については色々な説が唱えられています。ハゲワシの様に死肉を漁っていたという説、飛びながら魚を採っていたという説、河川や沼地の周囲でコウノトリの様に哺乳類や虫等の小動物を狩っていたという説等があります。最近では頭骨の形状や、意外と地上で動き回れそうな四肢からコウノトリ説が有力とされていますね。鋭いクチバシで恐竜の子供も食べていたんじゃないかと言われています。

しかしケツァルコアトルス等の巨大翼竜は飛べなかったという説もあります。体サイズに対する体重が重すぎるとも言いますね。しかし一方で、模型を使った風洞実験では実際に飛翔することが可能であったとされます。チャタジー博士らはケツァルコアトルスが時速50~60kmで飛んでいたとしており、デイヴィット・アンウィン博士も妥当な数値としています。しかし、飛び立つ為には地上を時速40kmで走らなければならないという実験結果もあったそうです。正直あの体形で、40kmで走れるとはとても思えません。しかし、翼竜の翼は手首から前に伸びる翼支骨を上下に動かす事で前飛膜を操作する事ができ、これを下に向ける事で浮かび上がる力が増すという実験結果があるそうです。これだともっと移動速度が遅くても離陸する事ができたと考えられているそうです。
参考文献:「世界最大の翼竜展2007‐2008 恐竜時代の空の支配者」図録、「翼竜の謎-恐竜が見あげた「竜」」図録
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