ティラノサウルス科_ナヌークサウルス

『超肉食恐竜 T・rex EpisodeⅡ』でナヌークサウルスが来日した記念という事で、ナヌークサウルスについて記事を書いてみようと思います。

　ナヌークサウルス･ホグランディ( Nanuqsaurus hoglundi )は、2006年にアメリカ合衆国アラスカ州ノースロープ郡のプリンス･クリーク層で採取された部分的な頭部の化石に基づき、2014年3月にペロー自然科学博物館のアンソニー･R･フィオリオ博士、ロナルド・S. Tykoski博士によって記載されたティラノサウルス科の恐竜です。
　名前の意味は、ナヌーク＝イヌイット語で“ホッキョクグマ”+サウルスで、【ホッキョクグマのトカゲ】となります。種小名は慈善家のフォレスト･ホグランド氏に献名されたものです。

想像図。現在程ではないとは言え、かなり寒かった北極圏に生息していた事から、モッサモサだったかもしれませんね。

　ホロタイプDMNH21461は右上顎骨の破片、左歯骨の前半分、頭頂部分の一部からなります。生息していた年代は白亜紀後期の最終期、マーストリヒト期後期の早い時期といい、7000万年～6900万年前と推定されます。

かなり断片的です。

　ナヌークサウルスの頭頂部の骨は前頭骨と頭頂骨からなります。ティラノサウルス類の頭頂部背面には前頭骨後部から頭頂骨にかけて顕著な正中矢状稜がありますが、ナヌークサウルスの特徴としては以下の様な物があるといいます。
　　● ナヌークサウルスの矢状稜は、頭頂骨部分では左右から押し潰されて狭く、
　　　　前頭骨部分では広くなっており2列の畝になっている。
　　● 他のティラノサウルス科と異なり、上から見た際に稜がY字型をしている。
　　● 前頭骨の前前頭骨との接合部突起に切れ込みがある
　　　　⇒テラトフォネウスと共通する特徴
　　● 涙骨との接合面に深い窪みがある
　　　　⇒アルバートサウルスとは異なる(ナヌークサウルスは最初、ゴルゴサウルスと考えられ、
　　　　　その後、年代的にアルバートサウルスではないかと考えられていた為)。
　また、頭頂部の形態から成熟した個体であるとされます。大人でも頭部の長さは60～70cmと推定され、全長は6m程度ではないかと考えられています。

　歯骨では歯槽に特徴があるそうです。1番前と2番目の歯槽が3番目以降の歯槽よりもかなり小さいというのがそれで、3番目の歯槽が16.5mmあるのに対し、1番目は5.6mm、2番目は7.5mmと半分以下しかないんだそうです。他のティラノサウルス科の成熟した個体では歯のサイズに格差はないそうで、幼体においてはその様な例もあるそうですが、ナヌークサウルスの場合、歯槽のサイズの格差がもっと大きいのだそうです。

　といった風に、ナヌークサウルスは頭頂部の骨の状態から成熟した個体と考えられるのに、歯骨歯のサイズの格差という幼体でしか見られない特徴を併せ持つという事で他のティラノサウルス科と区別できるという事の様ですね。うーん、難しい(;^ω^)

　2016年にステファン･ブルサッテ博士とトーマス･カー博士によるティラノサウルス類の系統解析が行われましたが、ナヌークサウルスはテラトフォネウスと最も近縁であるとされます。さらにダスプレトサウルスよりもティラノサウルスから遠い位置にきています。
　テラトフォネウスはララミディア大陸の南部系ティラノの代表格でありますので、これと近縁なナヌークサウルスがアラスカで見つかるという事は、南部系ティラノ達が北上し、その後アジアへ進出してタルボサウルスやズケンティランヌスを生み出した可能性が高い事を示唆している様に思われます。今後の更なる発見が待たれますね。

　ナヌークサウルスは推定体長6m程度と、ティラノサウルスの半分以下のサイズしかありません。フィオリオ博士によれば、現在程ではないにしろ、かなり冷え込む事もあったアラスカでは十分な食料が確保できない為、体サイズを小さくして対応したのではないかと言います。
　前にBBCで作成されたプラネットダイナソーでは、アラスカで見つかるトロオドン類は、もっと低緯度で発見される同族に比べて2倍近いサイズだと言われていましたが、ティラノサウルス類は小型化する道を選んだのですね。

参考文献：Fiorillo, A. R.; Tykoski, R. S. (2014). Dodson, Peter, ed. "A Diminutive New Tyrannosaur from the Top of the World". PLoS ONE. 9 (3): e91287. doi:10.1371/journal.pone.0091287.
『超肉食恐竜T・rex』展図録