幻獣の名を冠する恐竜シリーズ21 ブラキトラケロパン(1)
- 2016/11/02
- 21:28

ブラキトラケロパン・メサイ( Brachytrachelopan mesai )は、アルゼンチン中西部のチュブト州セロコンドル自治区から北北東に約25kmにある丘の砂岩層、ジュラ紀最末期であるチトン期のカナドン カルセロ(Cañadón Cálcareo)層から発見された竜脚類です。
発見された部位は頸椎8個、脊椎12個、仙椎3個、右の腸骨、全ての肋骨、左の大腿骨遠位部、左脛骨近位端で、これらホロタイプはエジディオ・フェルグリオ古生物博物館(で、良いのか?Museo Paleontológico Egidio Feruglio ティラノティタンの全身骨格とか展示されてる)に収蔵されており、MPEF-PV 1716とナンバリングされています。2005年にオリヴァー・ロウハット博士らによりディクラエオサウルス科の新属新種として記載されました。
※ディクラエオサウルス科はディクラエオサウルス( Dicraeosaurus hansemanni )、アマルガサウルス( Amargasaurus cazaui )等が含まれる科で、レッバキサウルス科、ディプロドクス科と共にディプロドクス上科に分類されます。ディプロドクス科とは姉妹群を成しますが、ずんぐりむっくりな体、短い首が特徴で、あまり似ていません。
名前の意味はbrachytrachelos=ギリシャ語で”短い首”と、Pan=ギリシャ神話の”羊飼いの神”からなり、『首の短い牧神』とでもなりますでしょうか。種小名は化石の発見者ダニエル・メサ氏に献名されたものです。メサ氏が羊を飼育している酪農家だった事からパンの名前が採用されたそうです。
ブラキトラケロパンの最大の特徴は、何と言っても竜脚類として異例といえる程、”短い”首です。個々の頸椎は上下に高く前後に短くなっており、その為首が短い訳ですが、この特徴からその他全ての竜脚類から容易に区別する事ができると言います。頸椎から胴椎までの神経棘は前方に向かって強く湾曲しており、首が上に曲がらない構造になっています。頸椎は8個保存されていましたが、他のディクラエオサウルス科からの推測では12個あったのではないかとの事です。また、推定される全長は10m以下と竜脚類としてはかなり小柄ですが、仙椎の癒合具合から成熟した大人の個体であったとされます。

エジディオ・フェルグリオ古生物博物館で展示されている復元骨格。Wikipediaより。
ほとんどの竜脚類では首が長くなっていく傾向が見られます。首の伸長には頸椎自体を伸ばすか、数を増やすか、あるいはその両方が採用されており、極端な例では首の長さが胴体の4倍にまで達する種もいるそうです。そんな中、ブラキトラケロパンが属するディクラエオサウルス科の恐竜たちは首を短くしていく傾向があったとされます。現在知られているディクラエオサウルス科の中で原始的なものにアマルガサウルスがありますが、この種では首/胴の比率は1.36倍、ディクラエオサウルスで1.23倍となっており、竜脚類の中でも首が短い系統であるのがわかります。ブラキトラケロパンに至っては0.75倍となっており、最も首が短い竜脚類です。

「神流町恐竜センター」にて展示されているアマルガサウルスの復元骨格。

ディクラエオサウルスの復元骨格。Wikipediaより。
これら2種を見てもディクラエオサウルス科の首が短いのが良く分かりますね。
竜脚類においては、首の長さや柔軟性、姿勢はニッチを分け合うのに重要な要素であったと考えられています。したがって、ディクラエオサウルス科が首を縮退させた事は、低い位置の植物(かつ特定の植物)を食べる事に特化した事を示唆するのではないかと言います。ブラキトラケロパンでは首が上方向に曲がらない形状になってしまっている事からもこの仮説は支持されます。ブラキトラケロパンの前脚は発見されていない為不確定ですが、恐らく地面から1~2mの高さの植物を食べる事に特化していたのではないかと推測されます。
また、ロウハット博士は「ディクラエオサウルス科は首を短くした為に大型化しなかったかもしれない」と述べています。竜脚類の長大な首は、ほとんど移動しないで広範囲の餌を食べる為に進化したと言われています。また、この機能のおかげで体を巨大化させる事ができたとも言います。だから、ディクラエオサウルス科の恐竜たちは、他の仲間とは真逆の進化をした訳ですね。
なぜ首を短くする方向へ進化したのかについては、ロウハット博士は、北半球で【低い位置の植物を食べるニッチ】にいた鳥脚類が南半球にいなかったか、あるいは少なかったので、その生態的位置に入り込む為ではなかったかと推察しています。
系統解析の結果では、ブラキトラケロパンは同時代にアフリカに生息していたディクラエオサウルスよりも、同じくアルゼンチンで発見された白亜紀前期バーレム期のアマルガサウルスにより近縁で姉妹群を成す事が分かりました。アマルガサウルスは白亜紀前期に生息していましたが、ディクラエオサウルス科の中では原始的な種という事なので、この事からディクラエオサウルス科はパンゲア大陸が南北に分裂し始めたジュラ紀中期に急速に南半球に放散したと考えられます。
また、ジュラ紀後期の北米大陸にはスーワゼア( Suuwassea emilieae )という基盤的なディクラエオサウルス科が生息していた為、彼らの起源は、北米大陸にあるのではないかと言います。スーワゼアは2004年に記載された竜脚類で、記載当時はディプロドクス科にしてもディクラエオサウルス科にしても原始的過ぎるとの事で、所属不明のフラジェリカウダ類(ディプロドクス上科の中で、ディプロドクス科とディクラエオサウルス科を含む分類群)とされましたが、後の研究で基盤的なディクラエオサウルス科とされた様です。Wikipediaに写真がありますが、復元された骨格を見ると、あまりディクラエオサウルス科っぽくはない様です。
参考文献:Rauhut O.W.M., Remes K., Fechner R., Cladera G., Puerta P. (2005). "Discovery of a short-necked sauropod dinosaur from the Late Jurassic period of Patagonia". Nature 435:670-672.
参考サイト:Wikipedia「Brachytrachelopan」、「Suuwassea」、「Dicraeosauridae」
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