幻獣の名を冠する恐竜シリーズ22 エオラプトル(1)
- 2016/12/10
- 11:51
エオラプトル・ルネンシス( Eoraptor lunensis )はアルゼンチン北西部、サンファン州イスキガラスト州立公園(イスチグアラストとも。タランパヤ国立公園と共にイスキガラスト/タランパヤ自然公園群として世界自然遺産に登録されている。)の「月の谷」という荒地に広がるイスキガラスト累層で発見された最古級の恐竜です。

一説には下顎の先端がクチバシになっていたとも言いますが、爬虫類的な感じに。
1991年の夏、ポール・セレノ博士率いるアメリカのシカゴ大学と、アルゼンチンのサンファン国立大学の合同発掘隊が「月の谷」で発掘を行っていた際、アルゼンチン側から発掘隊に参加していた古生物学者リカルド・マルティネス博士(発見当時は博士課程)は、何気なく手に取った石を投げ捨てようとして、その中に動物の歯らしきものを見つけた為、すぐさまセレノ博士に知らせに行ったそうです。セレノ博士が慎重に石を削ったところ、ノジュールの中から爬虫類の後ろ足の第4指が出てきました。早速周囲を掘り返したところ、ほぼ全身の骨格が発見されたとの事。イスキガラスト累層から発見された恐竜としては4番目だそうです。ホロタイプはPVSJ 512とナンバリングされました。
1993年にエオラプトル・ルネンシスとして記載されました。エオラプトル・ルネンシスの名前は、ギリシャ神話の暁の女神エオスに由来し、「月の谷の暁の盗人」といった様な意味です。

産状のレプリカ。「メガ恐竜展2015」より。
エオラプトルが発見された地層は三畳紀後期の初期カルン期(2億2300万~2億3500万年前までと推測され、エオラプトルが発見された地層は約2億2800万年前とされる)であり、最古級の恐竜の1種です。しかし、最も原始的な獣脚類の1種と考えられているヘルレラサウルス( Herrerasaurus ischigualastensis )等はもっと下の層から発見されているそうなので、最古の恐竜という訳ではない様です。しかし、発見当初、非常に原始的な特徴から、全ての恐竜の祖先に近い位置にいる動物であるとされました。
エオラプトルは命名当時、知られる限り最も原始的な恐竜であり、恐竜時代の黎明期に存在した事に因んで「暁の女神エオス」の名を頂く事になりました。種小名はギリシャ語で月を意味するルナから来ていますが、これは発見された場所が「月の谷」と呼ばれている事に因みます。
エオラプトルに見られる特徴には以下の様なものがあります。
・上腕骨を引き上げる為の筋肉が付着する稜が長く発達する。足首を形成する骨の1つの距骨が
上方へ向かって張り出している。前足、後足の中空度が高い。手の指の先から2番目の指骨が
長い。⇒獣脚類的な特徴
・頭骨は高さに比べて幅が狭い。前眼窩窓が大きい。外鼻孔に対して鼻孔自体は小さい。頬骨の
後方突起の関節部が二股に分かれている。⇒獣脚類的な特徴
・獣脚類の顎の関節は前後にスライドして肉を嚙み切りやすくなっているが、エオラプトルでは単なる
蝶番型で口を開閉する事しかできない構造になっている。⇒他の獣脚類よりも原始的
・仙椎が3つ。前足には痕跡的ながら第5指が残っている。⇒他の獣脚類よりも原始的
・エオラプトルの歯は、前歯と奥の方の歯で明らかに構造が異なる。奥歯の方はフチに鋸歯のある
典型的な肉食恐竜のものであるが、前歯の方は基盤的な竜脚形類の様な木の葉型をしている。
⇒獣脚類および竜脚形類的な特徴
・後前頭骨がなく、前頭骨が上側頭窓の一部を形成する。外翼状骨が翼状骨に被さる。方形骨の
先端が後方へ向かって露出する。胸腰椎が仙椎の中に加わる。⇒竜盤類、鳥脚類に共通する特徴

全身の復元骨格。岐阜県博物館で開催された「新・恐竜学」より。
これらより、ポール・セレノ博士はエオラプトルが全ての恐竜の祖先に近い動物であると考えました。
一般的に基盤獣脚類あるいは獣脚類の姉妹群と考えられるヘルレラサウルスが仙椎を2つしか持っていない事から、エオラプトルの分類も安定せず研究者によって異なっており、基盤竜盤類あるいは恐竜類の姉妹群などと言われています。全長は約1~1.5m、体重10kgと推定されていますが、ホセ・ボナパルト博士などは、眼窩が大きい事から発見された個体はまだ子供で、より大きくなった可能性を指摘しています。
ポール・セレノ博士はエオラプトルの歯に異歯性が見られる事から、初期の恐竜は雑食で後に肉食、植物食に特化していったのではないかと推測し、エオラプトルは、その最も原始的な恐竜の祖先形質を引きずっている動物なのではないかと考えたそうです。
その後、2011年にエオラプトルと同じイスキガラスト累層で発見された最古の獣脚類エオドロマエウス( Eodromaeus murphi )がリカルド・マルティネス博士、ポール・セレノ博士らによって記載されましたが、この際にエオラプトルとエオドロマエウスとの比較研究により、エオラプトルは獣脚類ではなく竜脚形類の祖先なのではないかと考えられ始めました。
竜脚形類と共通する特徴としては以下の様な物があると言います。
・外鼻孔が大きい(?最初、外鼻孔は小さいって言われてた気が…?)。
・下顎の1番前の歯が、歯骨の先端から少し後方へ引っ込んでいる。
・前足の親指の第1指骨が大きくねじれ、爪の先が内側を向いてる。
・上顎の前方にある木の葉型の歯の歯冠の根元がくびれている。
この為、2010年に六本木ヒルズで開催された「地球最古の恐竜展」以降の書籍や図録ではエオラプトルは基盤竜脚形類とされています。その後、2013年にポール・セレノ博士がエオラプトルの頭骨を再記載した研究においては、獣脚類ではなく基盤竜脚形類であると結論された様です。しかしWikipediaを見ると、エオラプトルの分類がかなりコロコロ変わっているのが分かります。竜脚形類の英語版の項目を見ると、南アフリカで発見され2015年に記載された基盤竜脚形類のセパファノサウルス・ザストロネンシス( Sefapanosaurus zastronensis )の論文でエオラプトルは獣脚類でも竜脚形類でもない基盤竜盤類にされています。しかしブラジルで発見され2016年に記載された基盤竜脚形類ブリオレステス・シュルツ( Buriolestes schultzi )の論文ではエオラプトルは基盤竜脚形類に入っているという混乱ぷり。まぁ、概ね基盤的な竜脚形類と考えても良いのではないでしょうか。あんな小さな生き物がブロントサウルスやブラキオサウルスに進化していったと考えると凄い事ですね。
エオラプトルが生息していた時期、アルゼンチンのそのあたりは針葉樹が生い茂り、川が流れる肥沃な環境であったと考えられている。巨大な単弓類イスキガラスティア( Ischigualastia jenseni )や、7mにもなるクルロタルシ類サウロスクス( Saurosuchus galilei )、植物食爬虫類リンコサウルス類等と生息域を共有していた様である。エオラプトルはそれら別系統の爬虫類達と比べると小さく軽量であったので、大型の動物に襲い掛かる様な事はなかったと思われます。後脚が長く素早く走り回れた事から、トカゲや小型のキノドン類(哺乳類の祖先)、あるいは昆虫やミミズ等を捕食していたのではないかと考えられています。
この恐竜の情報は日本でも1993年1月6日の夜に全国ニュースで流れた為、恐竜ファンの間で軽いパニックが起こり、ビデオに録画していた者がいないか互いに連絡を取り合う事態になったらしいです。現在の様にネットがなかった時代ですもんね。
参考文献:「「恐竜」大ロマン99の謎」金子隆一・長尾衣里子著 二見文庫、「新恐竜伝説」金子隆一著 早川書房、「恐竜の世界」金子隆一著 新星出版社、「最新恐竜辞典-分類・生態・謎・情報収集-」金子隆一編 朝日新聞社、「驚異の大恐竜博 起源と進化~恐竜を科学する」図録、「地球最古の恐竜展」図録、「恐竜博2011」図録、「恐竜博2016」図録、Wikipedia「Eoraptor」

一説には下顎の先端がクチバシになっていたとも言いますが、爬虫類的な感じに。
1991年の夏、ポール・セレノ博士率いるアメリカのシカゴ大学と、アルゼンチンのサンファン国立大学の合同発掘隊が「月の谷」で発掘を行っていた際、アルゼンチン側から発掘隊に参加していた古生物学者リカルド・マルティネス博士(発見当時は博士課程)は、何気なく手に取った石を投げ捨てようとして、その中に動物の歯らしきものを見つけた為、すぐさまセレノ博士に知らせに行ったそうです。セレノ博士が慎重に石を削ったところ、ノジュールの中から爬虫類の後ろ足の第4指が出てきました。早速周囲を掘り返したところ、ほぼ全身の骨格が発見されたとの事。イスキガラスト累層から発見された恐竜としては4番目だそうです。ホロタイプはPVSJ 512とナンバリングされました。
1993年にエオラプトル・ルネンシスとして記載されました。エオラプトル・ルネンシスの名前は、ギリシャ神話の暁の女神エオスに由来し、「月の谷の暁の盗人」といった様な意味です。

産状のレプリカ。「メガ恐竜展2015」より。
エオラプトルが発見された地層は三畳紀後期の初期カルン期(2億2300万~2億3500万年前までと推測され、エオラプトルが発見された地層は約2億2800万年前とされる)であり、最古級の恐竜の1種です。しかし、最も原始的な獣脚類の1種と考えられているヘルレラサウルス( Herrerasaurus ischigualastensis )等はもっと下の層から発見されているそうなので、最古の恐竜という訳ではない様です。しかし、発見当初、非常に原始的な特徴から、全ての恐竜の祖先に近い位置にいる動物であるとされました。
エオラプトルは命名当時、知られる限り最も原始的な恐竜であり、恐竜時代の黎明期に存在した事に因んで「暁の女神エオス」の名を頂く事になりました。種小名はギリシャ語で月を意味するルナから来ていますが、これは発見された場所が「月の谷」と呼ばれている事に因みます。
エオラプトルに見られる特徴には以下の様なものがあります。
・上腕骨を引き上げる為の筋肉が付着する稜が長く発達する。足首を形成する骨の1つの距骨が
上方へ向かって張り出している。前足、後足の中空度が高い。手の指の先から2番目の指骨が
長い。⇒獣脚類的な特徴
・頭骨は高さに比べて幅が狭い。前眼窩窓が大きい。外鼻孔に対して鼻孔自体は小さい。頬骨の
後方突起の関節部が二股に分かれている。⇒獣脚類的な特徴
・獣脚類の顎の関節は前後にスライドして肉を嚙み切りやすくなっているが、エオラプトルでは単なる
蝶番型で口を開閉する事しかできない構造になっている。⇒他の獣脚類よりも原始的
・仙椎が3つ。前足には痕跡的ながら第5指が残っている。⇒他の獣脚類よりも原始的
・エオラプトルの歯は、前歯と奥の方の歯で明らかに構造が異なる。奥歯の方はフチに鋸歯のある
典型的な肉食恐竜のものであるが、前歯の方は基盤的な竜脚形類の様な木の葉型をしている。
⇒獣脚類および竜脚形類的な特徴
・後前頭骨がなく、前頭骨が上側頭窓の一部を形成する。外翼状骨が翼状骨に被さる。方形骨の
先端が後方へ向かって露出する。胸腰椎が仙椎の中に加わる。⇒竜盤類、鳥脚類に共通する特徴

全身の復元骨格。岐阜県博物館で開催された「新・恐竜学」より。
これらより、ポール・セレノ博士はエオラプトルが全ての恐竜の祖先に近い動物であると考えました。
一般的に基盤獣脚類あるいは獣脚類の姉妹群と考えられるヘルレラサウルスが仙椎を2つしか持っていない事から、エオラプトルの分類も安定せず研究者によって異なっており、基盤竜盤類あるいは恐竜類の姉妹群などと言われています。全長は約1~1.5m、体重10kgと推定されていますが、ホセ・ボナパルト博士などは、眼窩が大きい事から発見された個体はまだ子供で、より大きくなった可能性を指摘しています。
ポール・セレノ博士はエオラプトルの歯に異歯性が見られる事から、初期の恐竜は雑食で後に肉食、植物食に特化していったのではないかと推測し、エオラプトルは、その最も原始的な恐竜の祖先形質を引きずっている動物なのではないかと考えたそうです。
その後、2011年にエオラプトルと同じイスキガラスト累層で発見された最古の獣脚類エオドロマエウス( Eodromaeus murphi )がリカルド・マルティネス博士、ポール・セレノ博士らによって記載されましたが、この際にエオラプトルとエオドロマエウスとの比較研究により、エオラプトルは獣脚類ではなく竜脚形類の祖先なのではないかと考えられ始めました。
竜脚形類と共通する特徴としては以下の様な物があると言います。
・外鼻孔が大きい(?最初、外鼻孔は小さいって言われてた気が…?)。
・下顎の1番前の歯が、歯骨の先端から少し後方へ引っ込んでいる。
・前足の親指の第1指骨が大きくねじれ、爪の先が内側を向いてる。
・上顎の前方にある木の葉型の歯の歯冠の根元がくびれている。
この為、2010年に六本木ヒルズで開催された「地球最古の恐竜展」以降の書籍や図録ではエオラプトルは基盤竜脚形類とされています。その後、2013年にポール・セレノ博士がエオラプトルの頭骨を再記載した研究においては、獣脚類ではなく基盤竜脚形類であると結論された様です。しかしWikipediaを見ると、エオラプトルの分類がかなりコロコロ変わっているのが分かります。竜脚形類の英語版の項目を見ると、南アフリカで発見され2015年に記載された基盤竜脚形類のセパファノサウルス・ザストロネンシス( Sefapanosaurus zastronensis )の論文でエオラプトルは獣脚類でも竜脚形類でもない基盤竜盤類にされています。しかしブラジルで発見され2016年に記載された基盤竜脚形類ブリオレステス・シュルツ( Buriolestes schultzi )の論文ではエオラプトルは基盤竜脚形類に入っているという混乱ぷり。まぁ、概ね基盤的な竜脚形類と考えても良いのではないでしょうか。あんな小さな生き物がブロントサウルスやブラキオサウルスに進化していったと考えると凄い事ですね。
エオラプトルが生息していた時期、アルゼンチンのそのあたりは針葉樹が生い茂り、川が流れる肥沃な環境であったと考えられている。巨大な単弓類イスキガラスティア( Ischigualastia jenseni )や、7mにもなるクルロタルシ類サウロスクス( Saurosuchus galilei )、植物食爬虫類リンコサウルス類等と生息域を共有していた様である。エオラプトルはそれら別系統の爬虫類達と比べると小さく軽量であったので、大型の動物に襲い掛かる様な事はなかったと思われます。後脚が長く素早く走り回れた事から、トカゲや小型のキノドン類(哺乳類の祖先)、あるいは昆虫やミミズ等を捕食していたのではないかと考えられています。
この恐竜の情報は日本でも1993年1月6日の夜に全国ニュースで流れた為、恐竜ファンの間で軽いパニックが起こり、ビデオに録画していた者がいないか互いに連絡を取り合う事態になったらしいです。現在の様にネットがなかった時代ですもんね。
参考文献:「「恐竜」大ロマン99の謎」金子隆一・長尾衣里子著 二見文庫、「新恐竜伝説」金子隆一著 早川書房、「恐竜の世界」金子隆一著 新星出版社、「最新恐竜辞典-分類・生態・謎・情報収集-」金子隆一編 朝日新聞社、「驚異の大恐竜博 起源と進化~恐竜を科学する」図録、「地球最古の恐竜展」図録、「恐竜博2011」図録、「恐竜博2016」図録、Wikipedia「Eoraptor」
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