ティラノサウルス科_ダスプレトサウルス(2) 分類の混乱
- 2014/12/05
- 07:19
ダスプレトサウルスに含まれると考えられていた標本が、最近の研究で実は違う恐竜なんじゃないか、と言われてきています。その辺について、ちょっと見ていこうと思います。
まず、現在、シカゴのフィールド博物館に展示されているFMNH PR308について。

恐竜王国2012でゴルゴサウルスとして展示されたダスプレトサウルスの頭骨。いくらなんでもリサーチ不足すぎる(怒
これは1914年にアルバータ州のダイナソーパーク累層からバーナム・ブラウン博士によって採取された標本で、最初はアメリカ自然史博物館に収蔵されAMNH5434とされましたが、40年後にフィールド博物館に売却されました。頭骨の上部が欠けていた為、かなり石膏で修復されたそうです。1970年にデイル・ラッセル博士がアルバートサウルス・リブラトゥス(つまりゴルゴサウルス)と同定し、以後はアルバートサウルス・リブラトゥスとして展示されていましたが、1999年にトーマス・カー博士(現カーセッジ大学の准教授)によってダスプレトサウルス・トロススであると改められました。
この標本のキャストは国立科学博物館も所蔵しています。恐竜王国2012でもゴルゴサウルスとして展示されていました。2003年のフィリップ・カリー博士の論文では、ダスプレトサウルス・トロススはダイナソーパーク累層より古いオールドマン累層から発見されていることから、より新しいダイナソーパーク累層で発見されたFMNH PR308はD・トロススではなく、ダスプレトサウルスの一種とするべきとしています。
この論文をみると、D・トロススと同定されたオールドマン累層産の化石は2標本しか見つかっていないのに対し、ダイナソーパーク累層のダスプレトサウルス.spは8標本あるそうで、生息数も異なっていたかもしれません。2013年に出たマイク・ローウェン博士によるティラノサウルス科の系統解析では、「ダイナソーパーク累層のティラノサウルス類」とされており、ダスプレトサウルスとは別属になる可能性もあります。

FMNH PR308に基づいて描いた想像図。
1990年にニューメキシコ州で発見された標本OMNH10131は、ケネス・カーペンター博士、トーマス・リーマン博士により、アウブリソドンとして報告された標本です。2000年代に入って多くの研究者(フィリップ・カリー博士やトーマス・ホルツ博士)がこの標本はダスプレトサウルスの一種ではないかと考え始めました。その後、更に研究が進むと、この標本はより原始的である事が分かり、2010年に新属ビスタヒエヴェルソル(Bistahieversor)として記載されています。
1992年にはモンタナ州のツーメディシン累層から保存状態の非常に良い頭骨が発見され、ジャック・ホーナー博士らによって報告されています。この標本は7600~7400万年前のものとされていて、ダイナソーパーク累層のダスプレトサウルス.spよりも更に新しい時代に生息していました。現在はロッキー博物館が収蔵しており、Wikipediaに写真がありますが、ダスプレトサウルス・トロススよりはティラノサウルスに似ています。ホーナー博士らは、この標本はダスプレトサウルスからティラノサウルスに移行しつつある動物ではないかと推測したようです。2013年のローウェン博士の論文では、この標本もダスプレトサウルスから分離されていますので、異なる属になるかもしれません。また、このツーメディシン累層産のダスプレトサウルス.spでは3体以上からなるボーンベッド(同一種が一か所で固まって見つかる場所の事)が発見されており、フィリップ・カリー博士はダスプレトサウルスが群れで生活していた証拠と考えています。イギリスのBBCが作成したプラネットダイナソーという番組ではダスプレトサウルスが群れで生活していたと紹介されていますが、この標本が元ネタの様です。
⇒2017.03.30にダスプレトサウルス・ホルネリ( Daspletosaurus horneri )として記載されました。
こうしてみると、現在のところ、ダスプレトサウルスの種として有効なのはトロスス種のみと言えそうです。

ダスプレトサウルス・トロススの模式標本CMN8506に基づいて描いた想像図。個人的なイメージでは、ティラノサウルス科の中では頭部が前後に短く上下に厚い様に思います。
参考文献:「恐竜学最前線9・10」学研、
Currie, P.J. 2003. Cranial anatomy of tyrannosaurid dinosaurs from the Late Cretaceous of Alberta, Canada. Acta Palaeontologica Polonica 48 (2): 191–226.
Loewen, MA ; Irmis, RB ; Sertich, JJW ; Currie, PJ ; Sampson, SD (2013). Evans, David C , ed. "Tyrant Dinosaur Evolution Tracks the Rise and Fall of Late Cretaceous Oceans" . PLoS ONE 8 (11): e79420. doi : 10.1371/journal.pone.0079420 .
まず、現在、シカゴのフィールド博物館に展示されているFMNH PR308について。

恐竜王国2012でゴルゴサウルスとして展示されたダスプレトサウルスの頭骨。いくらなんでもリサーチ不足すぎる(怒
これは1914年にアルバータ州のダイナソーパーク累層からバーナム・ブラウン博士によって採取された標本で、最初はアメリカ自然史博物館に収蔵されAMNH5434とされましたが、40年後にフィールド博物館に売却されました。頭骨の上部が欠けていた為、かなり石膏で修復されたそうです。1970年にデイル・ラッセル博士がアルバートサウルス・リブラトゥス(つまりゴルゴサウルス)と同定し、以後はアルバートサウルス・リブラトゥスとして展示されていましたが、1999年にトーマス・カー博士(現カーセッジ大学の准教授)によってダスプレトサウルス・トロススであると改められました。
この標本のキャストは国立科学博物館も所蔵しています。恐竜王国2012でもゴルゴサウルスとして展示されていました。2003年のフィリップ・カリー博士の論文では、ダスプレトサウルス・トロススはダイナソーパーク累層より古いオールドマン累層から発見されていることから、より新しいダイナソーパーク累層で発見されたFMNH PR308はD・トロススではなく、ダスプレトサウルスの一種とするべきとしています。
この論文をみると、D・トロススと同定されたオールドマン累層産の化石は2標本しか見つかっていないのに対し、ダイナソーパーク累層のダスプレトサウルス.spは8標本あるそうで、生息数も異なっていたかもしれません。2013年に出たマイク・ローウェン博士によるティラノサウルス科の系統解析では、「ダイナソーパーク累層のティラノサウルス類」とされており、ダスプレトサウルスとは別属になる可能性もあります。

FMNH PR308に基づいて描いた想像図。
1990年にニューメキシコ州で発見された標本OMNH10131は、ケネス・カーペンター博士、トーマス・リーマン博士により、アウブリソドンとして報告された標本です。2000年代に入って多くの研究者(フィリップ・カリー博士やトーマス・ホルツ博士)がこの標本はダスプレトサウルスの一種ではないかと考え始めました。その後、更に研究が進むと、この標本はより原始的である事が分かり、2010年に新属ビスタヒエヴェルソル(Bistahieversor)として記載されています。
1992年にはモンタナ州のツーメディシン累層から保存状態の非常に良い頭骨が発見され、ジャック・ホーナー博士らによって報告されています。この標本は7600~7400万年前のものとされていて、ダイナソーパーク累層のダスプレトサウルス.spよりも更に新しい時代に生息していました。現在はロッキー博物館が収蔵しており、Wikipediaに写真がありますが、ダスプレトサウルス・トロススよりはティラノサウルスに似ています。ホーナー博士らは、この標本はダスプレトサウルスからティラノサウルスに移行しつつある動物ではないかと推測したようです。2013年のローウェン博士の論文では、この標本もダスプレトサウルスから分離されていますので、異なる属になるかもしれません。また、このツーメディシン累層産のダスプレトサウルス.spでは3体以上からなるボーンベッド(同一種が一か所で固まって見つかる場所の事)が発見されており、フィリップ・カリー博士はダスプレトサウルスが群れで生活していた証拠と考えています。イギリスのBBCが作成したプラネットダイナソーという番組ではダスプレトサウルスが群れで生活していたと紹介されていますが、この標本が元ネタの様です。
⇒2017.03.30にダスプレトサウルス・ホルネリ( Daspletosaurus horneri )として記載されました。
こうしてみると、現在のところ、ダスプレトサウルスの種として有効なのはトロスス種のみと言えそうです。

ダスプレトサウルス・トロススの模式標本CMN8506に基づいて描いた想像図。個人的なイメージでは、ティラノサウルス科の中では頭部が前後に短く上下に厚い様に思います。
参考文献:「恐竜学最前線9・10」学研、
Currie, P.J. 2003. Cranial anatomy of tyrannosaurid dinosaurs from the Late Cretaceous of Alberta, Canada. Acta Palaeontologica Polonica 48 (2): 191–226.
Loewen, MA ; Irmis, RB ; Sertich, JJW ; Currie, PJ ; Sampson, SD (2013). Evans, David C , ed. "Tyrant Dinosaur Evolution Tracks the Rise and Fall of Late Cretaceous Oceans" . PLoS ONE 8 (11): e79420. doi : 10.1371/journal.pone.0079420 .
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