ティラノサウルス上科_ビスタヒエヴェルソル
- 2014/12/07
- 00:30
2016.09.10 写真と文章を追記。

ビスタヒエヴェルソル( Bistahieversor sealeyi )は、ニューメキシコ州のカートランド累層(およそ7450万年前)で発見されたティラノサウルス類で、成体と亜成体の標本が発見されています。成体は体長9m程に成長したと考えられています。
現在ビスタヒエヴェルソルとされる最初の標本OMNH 10131は、部分的な頭骨と体骨格で1990年にケネス・カーペンター博士とトーマス・リーマン博士によりアウブリソドンとして記載されました。
追加標本NMMNH P-25049は亜成体で、1992年に発見されています。
更に完全な頭骨が1998年に発見されました。トーマス・カー博士とトーマス・ウィリアムソン博士によって2000年に発表された論文では、これらの標本を再調査し、アウブリソドンではなく、むしろダスプレトサウルスの新しい種に属しているのではないかと示唆されました。
2010年にトーマス・カー博士とトーマス・ウィリアムソン博士は、この標本はダスプレトサウルスでもない新属新種であるとしてBistahieversor sealeyi の名で再記載しました。

2016年に福井県立恐竜博物館で開催された『恐竜の大移動』展で展示された頭骨のレプリカ。後のティラノサウルス科の仲間と比べると、眼窩への後眼窩骨の湾入が弱い様に思います。眼窩がB型でなく、丸い感じがしますね。
日本初公開です(;゚Д゚)
名前の由来は、ビスタヒという地名(ネイティヴアメリカンのナヴァホ族の言葉で〝干しレンガの地層の場所″といった意味)と、ギリシャ語の「破壊者」の組合せで、「ビスタヒの破壊者」といった意味になります。2000年以降に名付けられた北米産ティラノサウルス類は、「破壊者」とか「流血王」とか、割と厨二病っぽい名前ですが、まぁ、古生物好きは多かれ少なかれオタク気質なので頷けます。
ビスタヒエヴェルソルの特徴としては、鼻骨が上下に高さがある事が挙げられるそうで、この形質は、より派生的なティラノサウルス類には見られない特徴との事です。また、64本と多数の歯を持つ事、目の上に余分な開口部を持つ事(⇒上の写真を見ると、その様な穴は見つからないんですが・・・)、及び下顎に沿って隆条を持つ事で他のティラノサウルス類と区別されるとされます。

後頭部の写真です。しかし、"余計な開口部"ってのは見当たらないですね。あと、頭頂骨の先端がひん曲がってるのも良くわかります。
しかし、目の上の開口部は、記載論文に載っている図版にはあるのですがG.ポール博士やスコット・ハートマン博士の復元骨格を見るとないので、化石化の過程で破損が生じただけなのかもしれません。
本種の記載時、頭頂部にトサカがある様な骨格図や復元画を良く見ましたが、アーティファクト( 化石化の過程で骨が変形したせいで本来の形と異なる装飾物に見えたり、石膏等で根拠なく装飾物が付けられたりした場合の装飾物を指す )の様です。どうもひん曲がった頭頂骨の様ですね。G.ポール博士の「THE PRINCETON FIELD GUIDE TO DINOSAURS」という骨格図満載の本でもトサカがある様に描かれています。

先の写真から描きおこした想像図。ティラノサウルス科じゃないって言われても、素人には区別がつかないッス(;´Д`)
ビスタヒエヴェルソルは記載時の系統解析でティラノサウルス科の外に出され、ちょっと遠い親戚と考えられたのですが、2013年のマイク・ローウェン博士らによる系統解析では、ダスプレトサウルスよりもティラノサウルスに近縁であるとされています。
Wikipediaのティラノサウルス類の英語版にはクラドグラム( ある動物と祖先を同じくする別の複数の動物について、どっちが祖先から早く分かれたのかを示す図 )が載っていますが、これを見るとリトロナクスと並んでティラノサウルスのすぐ近くに配置されています。リトロナクス、ビスタヒエヴェルソル(あと、ユタ州で見つかったテラトフォネウスも)は南方系のティラノサウルス類とされ、北方系ティラノサウルス類よりも歯の数が少なく、場所によって顕著に大きさが異なる等の特徴を共有している事から祖先を同じくする動物と考えられています。南方系ティラノサウルス類は、ロッキー山脈の様な地理的な隔壁によって、より派生的な北方のティラノサウルス類(アルバートサウルス、ゴルゴサウルス、ダスプレトサウルス等)とは分断されていたとされています。
※ビスタヒエヴェルソルのみ歯の数が多いので、2次的な適応なのかもしれません。
↓
2016年にステファン・ブルサッテ博士とトーマス・カー博士がティラノサウルス類の系統解析を行った結果、ビスタヒエヴェルソルはティラノサウルス科ではなかったという結果になりました。これで、ビスタヒエヴェルソルの歯が多い事に疑問がなくなりましたね。
個人的にはティラノサウルスは歯の数が少なく、涙骨の突起も発達しないので、何となく南方系ティラノサウルス類の末裔なんじゃないかと思っています。⇒2016年の群馬県立自然史博物館で開催された『超肉食恐竜 T・rex』展の図録には、ティラノサウルスは南方系ティラノサウルス類から進化したとありました。
トリケラトプスの様に大型の角竜類も南方起源の可能性がある様なので、どこかで北米南部の動物相と北部の動物相が入り混じる時期が白亜紀最末期あったのかもしれません。
参考サイト:Wikipedia英語版「Bistahieversor」
参考文献:「THE PRINCETON FIELD GUIDE TO DINOSAURS」Gregory S. Paul Princeton University Press、
Carr, T.D. and Williamson, T.E. (2010). "Bistahieversor sealeyi, gen. et sp. nov., a new tyrannosauroid from New Mexico and the origin of deep snouts in Tyrannosauroidea." Journal of Vertebrate Paleontology, 30(1): 1-16.
「The phylogeny and evolutionary history of tyrannosauroid dinosaurs」 Stephen L. Brusatte & Thomas D. Carr
『恐竜の大移動』展 図録、『超肉食恐竜 T・rex』展 図録

ビスタヒエヴェルソル( Bistahieversor sealeyi )は、ニューメキシコ州のカートランド累層(およそ7450万年前)で発見されたティラノサウルス類で、成体と亜成体の標本が発見されています。成体は体長9m程に成長したと考えられています。
現在ビスタヒエヴェルソルとされる最初の標本OMNH 10131は、部分的な頭骨と体骨格で1990年にケネス・カーペンター博士とトーマス・リーマン博士によりアウブリソドンとして記載されました。
追加標本NMMNH P-25049は亜成体で、1992年に発見されています。
更に完全な頭骨が1998年に発見されました。トーマス・カー博士とトーマス・ウィリアムソン博士によって2000年に発表された論文では、これらの標本を再調査し、アウブリソドンではなく、むしろダスプレトサウルスの新しい種に属しているのではないかと示唆されました。
2010年にトーマス・カー博士とトーマス・ウィリアムソン博士は、この標本はダスプレトサウルスでもない新属新種であるとしてBistahieversor sealeyi の名で再記載しました。

2016年に福井県立恐竜博物館で開催された『恐竜の大移動』展で展示された頭骨のレプリカ。後のティラノサウルス科の仲間と比べると、眼窩への後眼窩骨の湾入が弱い様に思います。眼窩がB型でなく、丸い感じがしますね。
日本初公開です(;゚Д゚)
名前の由来は、ビスタヒという地名(ネイティヴアメリカンのナヴァホ族の言葉で〝干しレンガの地層の場所″といった意味)と、ギリシャ語の「破壊者」の組合せで、「ビスタヒの破壊者」といった意味になります。2000年以降に名付けられた北米産ティラノサウルス類は、「破壊者」とか「流血王」とか、割と厨二病っぽい名前ですが、まぁ、古生物好きは多かれ少なかれオタク気質なので頷けます。
ビスタヒエヴェルソルの特徴としては、鼻骨が上下に高さがある事が挙げられるそうで、この形質は、より派生的なティラノサウルス類には見られない特徴との事です。また、64本と多数の歯を持つ事、目の上に余分な開口部を持つ事(⇒上の写真を見ると、その様な穴は見つからないんですが・・・)、及び下顎に沿って隆条を持つ事で他のティラノサウルス類と区別されるとされます。

後頭部の写真です。しかし、"余計な開口部"ってのは見当たらないですね。あと、頭頂骨の先端がひん曲がってるのも良くわかります。
しかし、目の上の開口部は、記載論文に載っている図版にはあるのですがG.ポール博士やスコット・ハートマン博士の復元骨格を見るとないので、化石化の過程で破損が生じただけなのかもしれません。
本種の記載時、頭頂部にトサカがある様な骨格図や復元画を良く見ましたが、アーティファクト( 化石化の過程で骨が変形したせいで本来の形と異なる装飾物に見えたり、石膏等で根拠なく装飾物が付けられたりした場合の装飾物を指す )の様です。どうもひん曲がった頭頂骨の様ですね。G.ポール博士の「THE PRINCETON FIELD GUIDE TO DINOSAURS」という骨格図満載の本でもトサカがある様に描かれています。

先の写真から描きおこした想像図。ティラノサウルス科じゃないって言われても、素人には区別がつかないッス(;´Д`)
ビスタヒエヴェルソルは記載時の系統解析でティラノサウルス科の外に出され、ちょっと遠い親戚と考えられたのですが、2013年のマイク・ローウェン博士らによる系統解析では、ダスプレトサウルスよりもティラノサウルスに近縁であるとされています。
Wikipediaのティラノサウルス類の英語版にはクラドグラム( ある動物と祖先を同じくする別の複数の動物について、どっちが祖先から早く分かれたのかを示す図 )が載っていますが、これを見るとリトロナクスと並んでティラノサウルスのすぐ近くに配置されています。リトロナクス、ビスタヒエヴェルソル(あと、ユタ州で見つかったテラトフォネウスも)は南方系のティラノサウルス類とされ、北方系ティラノサウルス類よりも歯の数が少なく、場所によって顕著に大きさが異なる等の特徴を共有している事から祖先を同じくする動物と考えられています。南方系ティラノサウルス類は、ロッキー山脈の様な地理的な隔壁によって、より派生的な北方のティラノサウルス類(アルバートサウルス、ゴルゴサウルス、ダスプレトサウルス等)とは分断されていたとされています。
※ビスタヒエヴェルソルのみ歯の数が多いので、2次的な適応なのかもしれません。
↓
2016年にステファン・ブルサッテ博士とトーマス・カー博士がティラノサウルス類の系統解析を行った結果、ビスタヒエヴェルソルはティラノサウルス科ではなかったという結果になりました。これで、ビスタヒエヴェルソルの歯が多い事に疑問がなくなりましたね。
個人的にはティラノサウルスは歯の数が少なく、涙骨の突起も発達しないので、何となく南方系ティラノサウルス類の末裔なんじゃないかと思っています。⇒2016年の群馬県立自然史博物館で開催された『超肉食恐竜 T・rex』展の図録には、ティラノサウルスは南方系ティラノサウルス類から進化したとありました。
トリケラトプスの様に大型の角竜類も南方起源の可能性がある様なので、どこかで北米南部の動物相と北部の動物相が入り混じる時期が白亜紀最末期あったのかもしれません。
参考サイト:Wikipedia英語版「Bistahieversor」
参考文献:「THE PRINCETON FIELD GUIDE TO DINOSAURS」Gregory S. Paul Princeton University Press、
Carr, T.D. and Williamson, T.E. (2010). "Bistahieversor sealeyi, gen. et sp. nov., a new tyrannosauroid from New Mexico and the origin of deep snouts in Tyrannosauroidea." Journal of Vertebrate Paleontology, 30(1): 1-16.
「The phylogeny and evolutionary history of tyrannosauroid dinosaurs」 Stephen L. Brusatte & Thomas D. Carr
『恐竜の大移動』展 図録、『超肉食恐竜 T・rex』展 図録
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