ティラノサウルス科_テラトフォネウス

※2016.08.07　写真と文章を追加


テラトフォネウスの頭部。【恐竜王国2012】より。


もう1枚、頭骨を。2012年に千葉県立中央博物館で開催された【ティラノサウルス-肉食恐竜の世界‐】より。


模式標本から復元された亜成体の骨格に基づく想像図。お顔アップ。

　テラトフォネウス( Teratophoneus curriei )はユタ州で発見されたティラノサウルス科の肉食恐竜で、2011年にトーマス･カー博士、トーマス･ウィリアムソン博士、ブルックス･ブリット博士、ケネス･スタッドマン博士により記載されました。模式標本BYU 8120/9396は断片的な頭骨と頸椎、胴椎、尾椎、骨盤等の部分的な体骨格からなります。この骨格は亜成体のものと思われ、全長5～6mと見積もられています。他にもUMNH VP 16691という標本がありますが、こちらは成体のものとされます。ユタ自然史博物館にはテラトフォネウスの成体と亜成体が展示されているそうです。
　名前の由来は、ギリシャ語で「怪物」という意味のTeratosと、「殺人者」という意味のphoneusから成り、種小名はフィリップ･カリー博士に献名されたものです。当時の生態系の中で、獲物となっていた植物食恐竜からは、正しく恐ろしい怪物に見えたと思われる事から名付けられたそうです。

　本種の大きな特徴として、亜成体の頭部が前後に短く高さがある事が挙げられます。ティラノサウルス科では幼体から亜成体にかけて、頭部が低く前後に長いという傾向がありますので、テラトフォネウスは結構特殊な特徴を持っていたと言えます。また、リトロナクスと同じく、上顎骨歯は11本で、前方の歯が後方の歯よりも明らかに大きいという形状をしています。2013年の系統解析では、ダスプレトサウルスよりもティラノサウルスに近縁な位置になっています。

　2016年にステファン･ブルサッテ博士とトーマス･カー博士によるティラノサウルス類の系統解析が行われました。この解析では、最節約法とベイズ法という2通りの方法で解析が行われています。細部で差異は見られますが、大筋は一致しており、ユティラヌスがプロケラトサウルス科に含まれていたり、ビスタヒエヴェルソルがティラノサウルス科の外群になってたりします。
　その中で、テラトフォネウスはダスプレトサウルスよりもティラノサウルスから遠い位置にきています。また、アラスカで発見されたナヌークサウルス（ Nanuqsaurus hoglundi ）と近縁であるという結果になったそうです。と言っても、ナヌークサウルスの標本は結構断片的なんでピンときませんが。


全身骨格。2016年に群馬県立自然史博物館で開催された【超肉食恐竜T・rex】展より。


全身の想像図。

　テラトフォネウスが発見されたのはカイパロウィッツ累層といい、近年、新種の恐竜が続々と記載されており、今注目されている場所です。年代は白亜紀後期カンパニア期(約7700～7600万年前)と推定されています。発見されている植物の化石からツル植物が多く、現在のいわゆるジャングルの様に植物が豊富であったと考えられています。また、水連やウキクサ等の化石も見つかる事から、湿地帯の様な場所も豊富にあったと思われます。


木々の間から顔を出すテラトフォネウス。体が小さい時は森の中で狩りをしていたかもしれません。

　デンバー自然史博物館のスコット･サンプソン博士は、カイパロウィッツ累層で見つかる植物から当時の環境を推測し、ララミディア大陸の南北で動物相が異なる理由を研究しています。それによると、ロッキー山脈の様な山地は障壁とはならず、豊富な植物が動物相を分けたと言います。つまり、食べ物が豊富な南部の恐竜たちはその地域から離れず独自の進化を遂げ、北部に散っていった恐竜たちとは異なる様相を呈するに至ったという訳です。とは言え、サンプソン博士は北米南部の動物相の研究は始まったばかりであり、この様な考え方はあくまで推測で、研究は不十分としています。今後の発見、研究が待たれますね。

参考文献：「ナショナルジオグラフィック 2014年5月号　失われた恐竜たちの大陸」日経ナショナルジオグラフィック社、英語版Wikipedia「Teratophoneus」、「恐竜王国2012」図録