幻獣の名を冠する恐竜シリーズ25 カロノサウルス

何と、明日でこのブログを始めて丸3年になります！
ここまで続けるとは思ってもみませんでしたが、継続は力なりと言いますし、続けていれば何か良い事あるかもしれませんね。
さて、最近は仕事が忙しかったり、子供の面倒見ないといけなかったりで腰を入れた記事を書いていませんでしたので、久しぶりにしっかりとしたものを書いていきたいと思います。
昔は仕事中に論文訳したりしてたのになぁ｡｡｡（←オイ

　今回紹介するのは、黒竜江省で見つかったカロノサウルスです。

　カロノサウルス( Charonosaurus jiayinensis )は2000年にアムール川の中国側、嘉蔭県（中国東北部、黒龍江省）近くのマーストリヒト期の地層からボーンベッドの状態で発見されたランベオサウルス類のカモノハシ恐竜です。ベルギー王立自然史博物館のパスカル･ゴドフロワ博士、中国(吉林大学博物館？)のザン･シュウキン博士、ジン･リアン博士によって記載されました。

こんな感じで骨から全体を想像してみました。

　属名は、ギリシャ神話に登場するカロン（現世と冥界の間に流れるステュクス川（日本で言う所の三途の川みたいなもん）の渡し守）と、トカゲを意味するギリシャ語のサウロスから、種小名は発見地の嘉蔭から付けられています。記載論文には何故「カロンのトカゲ」としたのか理由は書かれていませんが、恐らく極東のアムール川をステュクス川に見立てて命名したのではないでしょうか。
※そう言えば、ゴドフロワ博士は他にも、カロノサウルスの発見地から近い場所で見つかったカモノハシ恐竜にケルベロサウルス( Kerberosaurus manakini )なんて地獄の番犬の名前を与えてますので、大体想像通りな気がします。

　ホロタイプはCUST J-V1251-57とナンバリングされたクレストを除く頭骨の大部分で、その他の参照標本では頸椎、胴椎、尾椎、前後の脚など、大部分が発見されている様です。残念ながらクレストは見つかっていませんが、系統解析の結果、頭骨や歯の形状から、北米で発見されているパラサウロロフスに最も近縁であるとされた為、後頭部に向かってトロンボーンの様な突起が突き出していたと推測されています。カロノサウルスの独自の特徴に、腸骨(骨盤を形成する骨の1つで、背骨を挟んでいる骨)の前半部分が既知のハドロサウルス類の中で最も長いというのがあるそうです。
※ちょっとよく分からないんですが、論文をgoogle先生に訳してもらったら、腸骨の寛骨臼より前の部分が、寛骨臼の2倍の長さと訳されたワケですが、あってるんですかね…？骨格図見ても、特別長い感じは受けないんだけども｡｡｡


カロノサウルスに最も近縁とされるパラサウロロフスの頭骨。
長く伸びたクレストがオシャレです。

　カロノサウルスは非常に大型のカモノハシ恐竜で、出土した大腿骨の1本は長さが135cmあり、推定される全長は13mを超えると言います。これと同レベルのサイズなのは、メキシコで見つかったマグナパウリア(元ランベオサウルス･ラティカウドゥス Magnapaulia laticaudus)位しかおらず、一説にはカモノハシ恐竜最大のシャントゥンゴサウル（Shantungosaurus giganteus）に次いで大きなカモノハシ恐竜ではないかとされます。また、カロノサウルスの成熟した大人では、体重が7tにも及んだのではないかと推定されます。

　カロノサウルスが発見された地層はユーリャンツェ（Yuliangze）累層と呼ばれ、恐竜時代の最後の期であるマーストリヒト期の地層だそうです。花粉の化石からの分析では、6800～6500万年前と推定されており、北米大陸ではティラノサウルスやトリケラトプスが闊歩していた時期です。ここで重要なのは、この時代、カモノハシ恐竜(ハドロサウルス類)の中でもランベオサウルス亜科の恐竜は北米では既に見られなくなっていた、という点です。アメリカ大陸におけるランベオサウルス亜科の最も新しい記録は7100～6800万年前のマーストリヒト期初期のものとされます。この為、カロノサウルス(及びアムール川を挟んでロシア側から発見された別のランベオサウルス亜科のアムロサウルスAmurosaurus riabinini )は最も遅くまで生息していたランベオサウルス亜科の種であると考えられます。
　また、同じマーストリヒト期であっても、アムール川付近からは角竜やティタノサウルス類が一切発見されておらず、北米とは生態系が異なっていた事が窺われるそうです。ハドロサウルス類は元々、アジアでイグアノドン類から進化してきて、後に北半球に放散したと考えられています。北米大陸で繁栄した後、マーストリヒト期の後期に海面が下がって東アジアと北米大陸がつながった為、北米からランベオサウルス亜科の一部がアジアに戻り、マーストリヒト期の終焉まで生き残っていたかもしれない、と考えられています。
　
参考文献:「Dino Press Vol.2」オーロラ･オーバル社、Godefroit, Pascal; Shuqin Zan; Liyong Jin (2000). "Charonosaurus jiayinensis n. g., n. sp., a lambeosaurine dinosaur from the Late Maastrichtian of northeastern China".