幻獣の名を冠する恐竜シリーズ4 タラスコサウルス

2015.07.03　記事をちょこっと修正。
2016.05.04　記事をちょこっと修正。


　タラスコサウルス･サルヴィクス（Tarascosaurus salluvicus）はフランス南東部のプロヴァンス＝アルプ＝コート･ダジュール地域圏のPourcieuxという場所で1988年に発見された上顎骨に対して、パリ自然史博物館の古生物学者エリック･ビュフェトー博士により1991年に与えられた名前です。⇒この上顎骨、アルコヴェナトルという別の肉食恐竜のものだそうです。「肉食の系譜」管理人でらっしゃるtheropodさんに教えていただきました。ありがとうございます。
　タラスクという伝説のドラゴンに因んで名付けられました。
　ビュフェトー博士によると、伝統的にメガロサウルス属にぶち込まれていたヨーロッパの白亜紀から発見される大型の獣脚類は、ほとんどがアベリサウルス類と関係があったとしています。アベリサウルス類とは、南米やアフリカで発見されるケラトサウルスと関係のある大型の獣脚類で、カルノタウルスが最も有名です。頭部が寸詰まりで角あるいは角質が入り込んでいたと思われるシワを持つ、異常に短い前脚等の共通点があります。
　タラスコサウルスのホロタイプはカンパニアン期前期から発見されており、上顎骨以外に大腿骨、脊椎、尾椎等が見つかっています。大腿骨の長さから、体長は大よそ3.5m程と推測されています。
※ここが良く分からないんですが、大腿骨の長さから体長3.5mと推測されている様ですが、本とかどっかサイトには8～9m、あるいは10mオーバーで最大のアベリサウルス類等と書かれていて、何が何だか良く分かりません。妥当なところだと7m位でしょうか。
　ドイツの古生物学者オリヴァー･ロウハット博士は、2003年にタラスコサウルスは無効名としており、同じ年にはフランスの国立自然史博物館のローナンロナン･アラン博士らが、タラスコサウルスにはアベリサウルス類の特徴が見られないと述べています。しかし2013年にエリック･ビュフェトー博士らが発表したアルコヴェナトルの記載論文では、ルゴプスやクリプトプスといった原始的なアベリサウルス類と一緒に基盤的なアベリサウルス類になっていますので、イラストはそちらの説に従ってルゴプス等に似た感じで描いてみました。ただ、頭部の化石はほとんど見つかっていないので、角があったかどうかなどは不明です。よって、このイラストは全くの想像図です。

　タラスコサウルスという名前は、タラスク（Tarasque　タラスキュ、タラスコ、タラスクスとも）という伝説のドラゴンに由来します。私の好きなメガテンシリーズにも良く登場する古参の悪魔ですが、キリスト教の聖人を紹介した「黄金伝説」という書物によると、リヴァイアサンとボナコンという怪物の間に生まれたドラゴンで、山猫の上半身、亀の様な甲羅、6本の脚、ドラゴンの尾を持つキメラ的な化け物だったそうです。毒の息を吐き、灼熱のウンコをするというはた迷惑な存在で、かつ人を喰らっていました。一説には、前述の様なキリスト教的な説明がなされる前からローヌ地方に人食いの化け物の逸話があり、それがタラスクの起源であるとも言われています。

タラスクの想像図。予想以上にキモイ生き物になりました。
　
　タラスクは古よりブーシュ=デュ=ローヌ地方に住み着き、人々を苦しめていたそうですが、西暦48年に聖マルタがタラスクを祈りと聖水で調伏することに成功しました。タラスクは大人しくなって地元民の前に引き出されたそうですが、散々迷惑を被ってきた地元民はタラスクをフルボッコにして殺してしまったそうです。現在でもタラスコンという町では、タラスクが退治された事を祝う祭りが催されているそうです。

タラスコサウルスとタラスクのコラボ。

　さて、フランスというとヨーロッパ諸国の中では国土の大きな国ですが、ドイツやイギリスと比べるとあまり恐竜や同時代の大型爬虫類が発見されているイメージがありません。フランス産の恐竜で有名なところでは、アンペロサウルス･アタキス（Ampelosaurus atacis）があります。あまり大きくない15m程のティタノサウルス類の竜脚類で、背中にガッツリ装甲を持っている恐竜です。この名前は「ブドウのトカゲ」という意味で、ブドウ畑のそばで発見された事に因みます。フランスと言えばワイン、ワインと言えばブドウって事で、フランスで発見された恐竜の中では一番有名らしいです。


　タラスコサウルスはアベリサウルス類、アンペロサウルスがティタノサウルス類ですから、当時のフランスの生態系は、同時代のアフリカや南米と似ていたと考えられています。恐らく、アフリカから渡ってきたのだと推測されます。

参考サイト：Wikipedia英語版「Tarascosaurus」、「Abelisauridae」
参考文献：金子一馬画集Ⅱ　新紀元社