幻獣の名を冠する恐竜シリーズ5 アンズー

あんまりにも更新ができなくて、もう見てくれてる人いないんじゃないかと心配です。
少し追記しました。



　アンズー･ワイリエイ（Anzu wyliei）は、アメリカのサウスダコタ州およびノースダコタ州のヘル･クリーク層（マーストリヒト期上部と言いますから、恐竜時代の終焉間近ですね。6600万年前位との事です。）から発見されたオヴィラプトロサウルス類で、サウスダコタ州からはホロタイプのCM78000と追加標本CM78001が、ノースダコタ州からは3番目の標本MRF319が発見されています。Dino Pressという恐竜専門誌のVol.3にツーソンミネラルショーの記事があるのですが、そこで既にアンズーのキャストが売りに出されていました。2001年の事ですので、記載される相当前から知られていた事になります。日本では国立科学博物館がアンズーのキャストを所持している様ですが、常設展示はされていません。残念。

　オヴィラプトロサウルス類とは、卵泥棒で有名なオヴィラプトルを代表とする獣脚類の系統の1つです。その多くはモンゴル、中国から発見されていますが、北アメリカには近縁なカエナグナトゥス科が生息していました。アンズーはカエナグナトゥス科の中のキロステノテスという恐竜の一種とされていましたが、かなりサイズが大きく、体長3.5m、体重200～300kgと見積もられており、ギガントラプトルに次ぐサイズで、アメリカで発見されているオヴィラプトロサウルス類では最大です。


2009年の恐竜2009「砂漠の奇跡」で展示されたアンズーの頭骨から首。

　特徴としては、「前上顎骨が伸びた高いクレストを持つ」、「後頭顆（頭骨と頸椎のジョイント部分）が大後頭孔（延髄が通る穴）より広い」、「歯骨（下顎のクチバシ部分）の縫合部に大きな張り出しがある」といった形質を持ち、キロステノテスとは別属であるとされ、2014年にカーネギー博物館のマット･ラマンナ博士、国立自然史博物館のハンス－ディーター･ズース博士らにより新属新種として記載されました。Wikipediaを見ると、アンズーの化石はユタ大学、カーネギー博物館、スミソニアン博物館の3つの研究施設にあり、2006年にそれぞれの保管場所の研究者が同じ動物の化石を所持している事に気付いて共同研究を始めたんだそうです。
　本種は歯がまったくないので肉食は無理であったと思われ、植物食あるいは雑食と考えられます。柔らかい植物や小さな哺乳類、トカゲなどを丸呑みにしていたのではないかと推測されます。頭部のクレストはあまりに脆く、種間内の闘争などには使用できなかった可能性が高い為、視覚的に強調していたと思われます。

　命名される前、本種は発見された地層のヘル･クリーク（地獄の小川）層に因み「地獄から来たニワトリ」という愛称で呼ばれていたそうです。ラマンナ博士はこの愛称をギリシャ語かラテン語にしようとしたそうですが、フィーリングがしっくり来る名前にならなかったことから、シュメール神話に出てくる聖鳥であるアンズーから名前を取ったのだそうです。また、種小名は博物館への出資者のお孫さんに献名されたものだという事です。


アンズーの想像図。この他にも頭がライオン、上半身が男性の人間、下半身が鳥というバージョンもあるそうです。

　名前の元になったアンズーは、シュメール神話に登場する怪鳥で、獅子の頭と鷲の体を持ち、その羽ばたきで嵐を起こすとされています。有名な神話では、元々最高神アンの息子であったアンズーは、神々の王になるという野心を持ち、神の王であるエンリルの神殿から、万物を支配する事が可能になる『天命のタブレット』を盗み出したといいます。
　神々は狩猟の神ニンギルスにアンズー討伐を依頼し、ニンギルスは神々から授かった知恵でアンズーを打倒したのだそうです。しかし、アンズーの性格は、古い神話では神々に反乱を起こす悪役というより、エンリルの力の象徴といった側面が強かったそうです。時代が移り変わるにつれて、元々神聖視されていた物が邪悪な存在とされる事もありますし、あるいは王権を持った一族やその眷属を神格化した存在であるならば、アンズーのモデルになった氏族が王族に対して反乱を起こした事の暗喩なのかもしれないですね。

参考文献：Lamanna, Matthew C and Sues, Hans-Dieter and Schachner, Emma R and Lyson, Tyler R (2014). "A New Large-Bodied Oviraptorosaurian Theropod Dinosaur from the Latest Cretaceous of Western North America,". PloS one 9 (3): e92022.
Wikipedia　「アンズー」
金子一馬画集Ⅱ　新紀元社